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青森県東方沖でM7.5の地震発生し最大震度6強観測 初の「後発地震注意情報」で1週間は警戒を

2025.12.09

内城喜貴 / 科学ジャーナリスト、共同通信客員論説委員

 青森県東方沖で8日夜にマグニチュード(M)7.5の大きな地震が発生し、青森県八戸市で最大震度6強を観測した。気象庁は北海道太平洋沿岸中部から青森県太平洋沿岸、岩手県に津波警報を出し、寒さが厳しい深夜に多くの人が避難を余儀なくされた。同庁はまた、巨大地震の発生する可能性が平常時より相対的に高まったとして「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を2022年の運用開始後初めて発表し、「特別な警戒」を呼びかけている。

 気象庁によると、発生時間は8日午後11時15分ごろで、震源は青森県東方沖で震源の深さは54キロ。津波警報は9日未明には津波注意報に切り替えられ、早朝には全て解除された。岩手県久慈港で70センチなど各地で津波が観測された。政府に入った情報では9日正午段階で深刻な大規模被害は起きていないが、30人以上のけが人が出ているほか、建物の一部損壊や道路の陥没、断水などの被害が報告されている。また鉄道などに影響が出た。原子力規制庁によると、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場や北海道と東北各県の原子力発電所に異常は確認されなかったという。

青森県東方沖を震源とする地震の震度分布図(12月8日23時26分発表)(気象庁提供)
青森県東方沖を震源とする地震の震度分布図(12月8日23時26分発表)(気象庁提供)
津波警報などの発表状況(気象庁提供)
津波警報などの発表状況(気象庁提供)

地震は東日本大震災時と同じ海溝型

 気象庁や地震の専門家によると、今回の地震は2011年3月11日に東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震と同じ海溝型(プレート境界型)とみられる。今回の震源は同地震震源域の北側の領域に位置する。どちらも日本海溝沿いで発生するタイプでメカニズムは基本的に同じだ。

 東北地方太平洋沖では太平洋プレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいてプレート境界で固着し、ひずみが蓄積している。ひずみが限界に達するとプレート境界がずれ動いて地震が発生する。断層のずれは典型的な逆断層型になる。

 今回の地震の震源周辺では1968年5月にM7.9(気象庁マグニチュード)の十勝沖地震が起きて2メートルを超える津波が発生。死者、行方不明者は50人を超え、300人以上が負傷した。また94年12月にはM7.6(同)の三陸はるか沖地震が発生し、死者3人と700人以上の負傷者を出している。

 東北地方から北海道の太平洋側の沖合に続く日本海溝と千島海溝近くで起きる巨大地震は「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震」と呼ばれる。2011年の東北地方太平洋沖地震のほか、過去1896年に明治三陸地震、869年に貞観地震など、巨大な津波を伴う地震が繰り返し発生している。国の想定では日本海溝沿いの巨大地震が起きた場合は北海道や岩手県沖に髙さ30メートル近い津波が到達する可能性があり、死者は最大約19万9000人に上るが、早期避難などにより約8割減らせるとしている。

8日深夜の青森県東方沖地震と周辺で起きた地震の震央分布図(気象庁提供)
8日深夜の青森県東方沖地震と周辺で起きた地震の震央分布図(気象庁提供)
8日深夜の青森県東方沖地震では北海道と東北地方で長周期地震動が観測された(気象庁提供)
8日深夜の青森県東方沖地震では北海道と東北地方で長周期地震動が観測された(気象庁提供)

注意情報は7道県182市町村に

 国は日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の震源域内でM7以上の地震が起きた場合は続けて巨大地震が起きる可能性が高まるとして、甚大被害を軽減する目的で2022年12月に北海道・三陸沖後発地震注意情報の運用を開始した。東日本大震災の2日前にM7.3の前震があったことなどを踏まえた措置だった。

 北海道・三陸沖後発地震注意情報はこの制度に先だって2019年から運用されている「南海トラフ地震臨時情報」に似ている。ただ同臨時情報には「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」の2種類あり、前者は一部住民に事前避難を求めるが、後者は求めない。その点では北海道・三陸沖後発地震注意情報と同じだ。

 気象庁によると、過去の世界的な大規模地震例から推定される「7日以内にM8級以上が起きる確率」は100回に1回程度。平常時は1000回に1回とされ、単純計算ではリスクは10倍になる。発表頻度は2、3年に1回程度と想定されている。

 気象庁は9日午前2時に今回の地震が運用基準に該当するとして同注意情報を発表した。期限は16日午前零時までだ。対象地域は北海道から千葉県の7道県182市町村に及ぶ。同庁や内閣府は1週間程度社会活動を継続しつつすぐに避難できる態勢をとって非常時持ち出し品を常時携行するなどの「特別な備え」が必要としている。

 気象庁担当者は9日未明の記者会見で 「最悪のケースでは3.11(東日本大震災)の時のよう地震が起きることを想定し、備えをする必要がある」と述べた。

日本海溝・千島海溝沿いで後発地震が起きた例(気象庁提供)
日本海溝・千島海溝沿いで後発地震が起きた例(気象庁提供)
「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を分かりやすく伝える図の一部(気象庁・内閣府提供)
「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を分かりやすく伝える図の一部(気象庁・内閣府提供)

「日頃からの備え徹底」が大切

 北海道・三陸沖後発地震注意情報も南海トラフ巨大地震の警戒・注意の両臨時情報も大きな地震を予知する情報ではない。大地震は海溝型、内陸型を問わず、何の前兆もなしに突然起きる可能性が、つまり「不意打ち」で起きる可能性が高い。政府地震調査委員会の平田直委員長はこのことを再三指摘している。

 今回の地震後、大きな後発地震が起きないことを祈るばかりだが、内閣府の担当者は以前「後発地震が起きなくても『空振り』と捉えるのではなく、防災訓練や防災意識の向上につなげる『素振り』と捉えてほしい」と強調している。

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