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光ファイバーで地下の振動をとらえるDAS技術 陥没リスクの早期発見にも NTT

2025.12.04

長崎緑子 / サイエンスポータル編集部

 インターネット網を支える既存の光ファイバーをセンサーとして用い、地下の微弱な振動をとらえる高精度の「分布音響センシング(DAS)」技術により、地中の空洞化を推定する手法を実証したとNTTが発表した。光ファイバーを敷設してプラント保守や防犯に用いられているDAS技術だが、既存の光ファイバー網を用いることにより、通信網の保守はもちろん、地下の地質評価や経時変化の常時観測を行うことができる。実用化が進めば、防災や減災、インフラ維持管理を低いコストで広域にできる可能性がある。

地中の空洞化を推定する手法の実証では、地上に微動アレイ探査の機器を置いて調べた地中の振動データと、DASで測定した地中の振動データを比較した(NTT提供)
地中の空洞化を推定する手法の実証では、地上に微動アレイ探査の機器を置いて調べた地中の振動データと、DASで測定した地中の振動データを比較した(NTT提供)

戻ってくる散乱光の変化からどこで何が起きているのか計測

 DASはDistributedとAcousticとSensingの頭文字をとったもの。光ファイバーの伝送路試験技術や光計測技術の研究に従事しているNTTアクセスサービスシステム研究所の飯田大輔主任研究員によると、光ファイバーにパルス状の光を入れると、光は前に進む一方で後ろに戻ってくる散乱光も存在する。車が通るなど地上の社会生活による微弱な振動が地中に伝わることで、光ファイバーはたわむようにして1メートルあたり数十ナノ(ナノは10億分の1)から1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル程度の伸び縮みを生じる。光ファイバーに光を入れてから戻ってきた散乱光の変化を受信器で捉え、ファイバーに沿ったどの地点でどんな振動(音響)が起きているのか計測するのがDAS技術だ。

光通信とDAS技術による光ファイバーセンシングの概要。通信は情報を先へ伝えるが、光センシングでは光ファイバーを戻ってくる反射光から周辺状況を調べることができる(NTT提供)
光通信とDAS技術による光ファイバーセンシングの概要。通信は情報を先へ伝えるが、光センシングでは光ファイバーを戻ってくる反射光から周辺状況を調べることができる(NTT提供)

プラントやファイバー網の保守から地震計測、地盤評価まで

 2010年頃からDASの研究開発が世界的に進んだ。パイプラインに光ファイバーを沿わせておくことで打音検査をしなくてもパイプの劣化などを常時モニタリングできることから、石油やガスプラントで採用されている。軍事施設などセキュリティーの高い施設では、人や物の侵入を感知するためにDASの光ファイバー網を敷設している例もある。

 国内では、大学などが既存の光ファイバー網を用いた地震の観測研究を行う。NTTでは、DASを光ファイバー網自体の保守管理に用いるとともに、地盤評価などに使うことができないかと研究を進めた。

約3~30メートルの深さの地盤特性が得られる

 地盤評価については、2025年7月~9月に産業技術総合研究所(産総研)と共同で、茨城県つくば市と埼玉県草加市で地中空洞化をDASの光ファイバーセンシングと、産総研が実績を積んでいる微動アレイ探査を同時に行った。

 微動アレイ探査では、複数の微動計を縦横決まった配置で地上に整列させ、それぞれがわずかな動きを同時に記録して解析する。地下深部までの様子を簡易に推定できる利点があるものの、探査ごとに機器の運搬の必要があったり、道路の地下の探査時だと道路を一時通行止めにする必要があったり、地盤モニタリングを広範囲、高頻度に行うのは現実的でなかった。

 一方、DASは通信のために既にある光ファイバーを用いるので作業を大幅に省くことができる。微動アレイ探査とDASのデータを比較して一致すれば、DASでも地盤モニタリングや空洞化を推定するために必要なデータがとれているとみなせる。

 約20分間の微動アレイ探査の結果と約1日分のDASの結果を比較したところ、地中の深さ約3メートルから30メートルほどの範囲を示す周波数では、双方の測定データが整合していた。DASで土の柔らかさを調べることが可能で、1日1回の遠隔モニタリングができると実証できたことになる。地盤特性の経時的変化を観測することで、地中で空洞化が進む予兆を推定することが可能になるという。

DAS(白丸)と微動アレイ探査(赤い四角)による地盤特性の測定結果。横軸の周波数は大きいほど地面からの深さが浅い。縦軸の位相速度は大きいほど土が硬い。つくばも草加も概ね整合的な結果を得た(NTT提供)
DAS(白丸)と微動アレイ探査(赤い四角)による地盤特性の測定結果。横軸の周波数は大きいほど地面からの深さが浅い。縦軸の位相速度は大きいほど土が硬い。つくばも草加も概ね整合的な結果を得た(NTT提供)

 成果は、11月19日~26日に開催した「NTT R&D フォーラム2025」で展示した。都市部では老朽化した上下水道などへの土砂の流入による地中空洞の発生に伴う道路陥没事故が社会問題となっている。交通障害やライフラインの寸断を引き起こす可能性があるなど地域社会に大きな影響が出る。今後は、インフラ監視や防災システムへの提供を目指して解析アルゴリズムの高度化などを進めるとともに、自治体や上下水道事業者と連携して実際の都市環境での実証実験を積み重ねていくという。

低コストで頻繁な地盤モニタリングに期待

 NTTは全国に約240万キロメートルの光ケーブルを敷設しているという。今回の実証実験では「管路」という道路の下などに張り巡らされる通信ケーブル用パイプ内の光ファイバーを用いた。管路は全国で62万キロ。この範囲の地盤のモニタリングがこれまでより低コストで頻繁にできれば、2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没のような事故が再び起きなくなる可能性も期待される。

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