人類が自然界に排出し、大きな問題となっているマイクロプラスチック。魚が淡水より海水で多く取り込んでしまうことが、東京大学の研究グループにより分かった。両方に適応できるタイプのメダカで実験し解明した。粒子の大きさによっては餌と誤認するのではなく、水と一緒に否応なく体内に取り込んでいることも判明。魚の生理を基に、汚染の影響と対策を考える上で重要な手がかりになるという。
“ハイブリッド”なメダカ2種でいざ実験
マイクロプラスチックはプラスチックの微細な粒子のごみで、基本的には自然に分解されず環境に蓄積してしまう。魚の体内への蓄積をめぐり、これまで海水と淡水の違いは注目されてこなかった。
一方、海水魚と淡水魚では、水に対する体の仕組みが大きく異なる。2つの液体が、水は通すが分子は通さない半透膜を隔てて隣り合った時、水が濃度の高い方に移る力を浸透圧という。海水魚、淡水魚とも体液の浸透圧は海水の3分の1と、同等。海水は体液より浸透圧が高いので、えらや体表から脱水する。そのため海水魚は水分補給のため海水をよく飲み、食道や腸で塩分を除き、浸透圧を下げてから水を吸収する。一方、淡水は逆に体液より浸透圧が低いので、えらや体表から常に水が入る。そのため淡水魚は水をほとんど飲まず、体に入った不要な水は尿として排出する。
こうした中、東京大学大気海洋研究所教授の井上広滋さん(分子海洋生物学)らの研究グループは、海水に生息するが淡水にも適応できるジャワメダカと、逆に淡水に生息するが海水にも適応できるミナミメダカの2種を使って実験した。メダカの多くは淡水魚だが、ジャワメダカは例外的に海水魚。これらにより海水と淡水での粒子の取り込みを、同じ種で比べられる利点がある。体内の粒子を外から観察しやすいため、成魚でなく稚魚を採用したという。
海水をゴクゴク…粒子まで一緒に体内へ
まずジャワメダカを海水でふ化させ、そのまま21日間育てたものと、少しずつ淡水に慣れさせたもの各6匹を、それぞれ目印の蛍光がついた直径1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)のポリスチレン粒子5000万個が入った500ミリリットルの中で過ごさせた。ポンプでかき混ぜ、粒子は水中で均一に分布させた。体内を調べた結果、両者は1、3、7日後のいずれも、粒子が主に消化管から見つかった。粒子の数は海水で育てた方が多かった。
ただし淡水に慣れさせた方は、ストレスで粒子を取り込まなかった恐れもある。そこでミナミメダカも同様に調べたが、同様に海水の方が粒子は多くなった。これにより、本来どちらに生息していようと、海水にいる方が粒子を多く取り込むことが分かった。なお稚魚の成長は海水と淡水で同等だった。
ミナミメダカの稚魚は淡水より海水で水を多く飲むことが分かっている。新たにジャワメダカでも調べたところ、同じだった。粒子が消化管に多くあったことと考え合わせ、海水では水分を飲んで補給する際に粒子を飲んでいることが分かった。
海水とともに粒子を飲んでしまうのは海水魚に共通すると考えられる。小さい粒子が同じ濃度であれば、海水にいる方が淡水にいるより取り込みやすいとの見方に達した。
汚染を理解する重要な手掛かりに
井上さんは「淡水と海水で粒子の取り込みが違うことや、実験で使ったような、バクテリアより小さい粒子だと、気づかず飲んでいることが分かった。汚染の魚類への影響を理解するための重要な手掛かりとなる」と語る。研究のアイデアを提案した同大大学院新領域創成科学研究科博士課程のヒルダ・マルディアナ・プラティウィさんは「さらに遺伝子の発現の変化や、ストレスなどを調べたい」と意欲をみせる。
なお、湖沼などの淡水は閉じた水域のため、マイクロプラスチックの濃度がそもそも高い。成果は、淡水での問題を軽視できるとみるべきものではないという。成果は英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に10日に掲載された。
「めだかの学校は、川の中~」と歌われるように、筆者はメダカは淡水魚ばかりと思い込んでいた。淡水でも海水でも、さまざまな魚たちを未来にわたり安心して「そーっとのぞいて」見ていられ、豊かな自然を守れるようにしたい。地道な研究と、それを生かした効果的な対策が欠かせない。
関連リンク
- 東京大学プレスリリース「魚は淡水中より海水中でより多くのマイクロプラスチックを飲む」