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求愛の成否、鍵握るのは…ヘイケボタル、瞬き手がかりに交尾 中部大など

2023.03.06

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 夏場に美しく光って風情があり、日本人に愛されているホタル。代表的な種の一つであるヘイケボタルが交尾のため、チカチカとした光の瞬きを活用していることが分かった。草に止まったオスと、交尾を済ませたメスが瞬く一方、まだ交尾していないメスは瞬かない。オスはそれを目印に相手を探す。中部大学、慶応大学の研究グループが観察と実験で突き止めた。発光による求愛の仕組みの理解は、ヘイケボタルの保全につながるという。

発光するヘイケボタルのオス(中部大学提供)
発光するヘイケボタルのオス(中部大学提供)

チカチカ…の意味を追う

 ホタルの成虫はお尻の光らせ方で、互いが同じ種であることや異性であることを見分けている。7~8月頃に水田や湿原で見かけるヘイケボタルは、草に止まっているオスの光が、1秒程度のボワッとした光の中に4~5回程度のチカチカした瞬きを見せる。しかし、その意味は分かっていなかった。

 そこで中部大学応用生物学部の大場裕一教授(発光生物学)らの研究グループは、愛知県東浦町の水田で野生のヘイケボタルを動画で撮影し分析した。その結果、(1)草に止まっているオスは、瞬きを伴って光りながら交尾していないメスに近づく、(2)交尾していないメスは、光に瞬きがなく、1回の発光時間がとても短い、(3)交尾済みのメスはオスに似て、瞬きを伴う光り方をする――と、それぞれに特徴のある光り方をすることが分かった。つまりオスは、瞬かず1回の発光時間が短いものを、交尾の相手として見分けているという仮説が浮上した。

小型LEDランプを使った “人工のホタル”(中部大学提供)
小型LEDランプを使った “人工のホタル”(中部大学提供)

 次に、ヘイケボタルと同じ黄緑色に光る小型LEDランプを使い、1回の発光時間と瞬きの強弱を変えられる“人工のホタル”を野外に設置した。するとオスは、交尾していないメスに似た、瞬きが小さく発光時間が短い光により強く誘われた。仮説を支持する結果となり、オスが、瞬かないことで交尾できるメスを見つけていることを突き止めた。同時に、メスが交尾の有無で、瞬きの有無を変えていることを発見した。

 大場教授は「オスは、たばこの火だろうが車のウインカーだろうが、光へととりあえず飛んでいく。そこから交尾できる相手かどうかを吟味するという、2段階を踏んでいる」と説明する。

グラフの細かいギザギザの上下が瞬きを示す。交尾済みのメスは、オスのように瞬く。交尾していないメスは瞬かず、1回の発光時間がとても短い(中部大学提供)
グラフの細かいギザギザの上下が瞬きを示す。交尾済みのメスは、オスのように瞬く。交尾していないメスは瞬かず、1回の発光時間がとても短い(中部大学提供)

光の秘密、もっと詳しく

 ホタルの発光によるコミュニケーションに、単純な発光時間や応答の遅れなどが関わっていることは分かっていた。しかしヘイケボタルの場合、短時間のチカチカした瞬きも情報として使っていることが明らかになった。瞬きを伴って光るホタルは海外にもあり、それらも何らかの形で瞬きを使ってコミュニケーションをしていると考えられるという。

 大場教授は「従来の『メスはオスに居場所を知らせている』という見方だけでは、発光を説明し尽くしていない。このようなホタルの求愛の仕組みの理解を進めれば、農薬散布や水田周辺の環境変化により全国的に減少しつつあるヘイケボタルの保全活動のヒントになるだろう」と述べている。

 研究グループは中部大学、慶応大学で構成。成果は英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2月10日掲載され、両大学が同17日に発表している。

ゲンジに比べ保全が…調査地からは姿消す

 成果を受け研究グループは考察を進め、(1)草の上に降りたオスが瞬くのは、まだ飛んでいるオスに対し、自分が見つけたメスだと牽制するアピールかもしれない、(2)交尾を終えたメスがオスのように瞬くのは、オスになりすまし、交尾できていないオスにアプローチされ産卵を邪魔されないようにしているためかもしれない――などとみる。これらの解明も今後の研究課題となる。

 今回の東浦町の調査は2003~16年に実施。その後、20年頃には調査地でヘイケボタルがいなくなってしまったという。大場教授は「比較的大きくてよく光り、見栄えがするゲンジボタルに比べ、一回り小さいヘイケボタルは保全が進んでいない。ゲンジボタルは川にいて保全しやすいが、ヘイケボタルは個人の土地である田んぼの脇の水路などにいる。ただ、減りつつあるのはむしろヘイケボタル」と指摘する。なおゲンジボタルはボワッとした光り方で、瞬かないそうだ。

 今年も「蛍の光、窓の雪~」と歌われる季節となった。貧しくても、ホタルの光で書物を照らして勉学に励むという故事に基づく歌詞だが、ホタルの光そのものから学ぶことも、人間が豊かな自然を守ることにつながりそうだ。

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