サイエンスクリップ

9年半の宇宙旅行を経て見えた冥王星の姿

2015.08.31

田端 萌子 / サイエンスライター

 冥王星は、考えていたよりも大きかった。NASAの無人探査機「ニューホライズンズ」が、日本時間7月14日20時49分、冥王星に最接近し、数々の画像を地球に送ってきた。以前はぼんやりとした小さな点の写真や想像図でしかなかった冥王星が、初めて、鮮明な姿をわれわれに見せてくれた。

 ニューホライズンズは、冥王星の正確な大きさや大気の存在のほか、予想より赤茶色い地表や、氷の平原や流氷、新しい山脈の存在など、毎日のように研究者たちを驚かすようなデータを送ってきている。この観測によって、太陽系全容の解明に一歩近づくだけでなく、太陽系がどうやってできたかを明らかにするヒントを得られるかもしれない。これまでに発見された「驚きの注目ポイント」をまとめてみよう。

最接近前の7月13日、地表から約77万kmの距離から撮影された冥王星(提供:NASA/APL/SwRI)
最接近前の7月13日、地表から約77万kmの距離から撮影された冥王星(提供:NASA/APL/SwRI)

冥王星と探査機ニューホライズンズ

 冥王星は、かつては太陽系の第9の惑星であったが、後に他にも似たような星が相次いで発見されたため、2006年に準惑星に格下げされた※。太陽から平均59億キロメートル離れており、岩石と氷からなる、アメリカ合衆国ほどの大きさの星である。しかし、地球からあまりにも遠すぎるため、実際に冥王星がどんな姿をしているのかは分かっていなかった。

 2006年1月19日に打ち上げられたニューホライズンズは、地球と太陽との距離の39倍も離れている星に、時速5万8千キロメートルで向かった。この速度は新幹線の最高速度時速320キロメートルの約180倍に当たる。2007年2月28日木星通過時に重力で加速して、約9年半太陽系を旅して冥王星に最接近した。

 ピアノほどの大きさのこの探査機は、可視光と赤外線の撮像をする「ラルフ(Ralph)」など7つの観測機器を載せており、8月後半まで冥王星の地形や内部構造、大気の探査を行ない、来年4月までそのデータを送り続ける。

驚きの発見ポイント1:サイズ

 まず驚かされたのは、冥王星は考えられていたより少し大きかったことだ。見積もりの直径が2,276~2,326キロメートルであったのに対し、実際は2,370キロメートル。冥王星のサイズは発見された1930年からずっと議論されてきたが、これまで大気の層が複雑な要素となり観測は難しかった。

地球、冥王星、衛星カロンの大きさの比較。冥王星は地球の18.5%、カロンは9.5%(提供:NASA/JHUAPL/SWRI)
地球、冥王星、衛星カロンの大きさの比較。冥王星は地球の18.5%、カロンは9.5%(提供:NASA/JHUAPL/SWRI)

驚きの発見ポイント2:地表の地形

 送られてきた鮮明な画像(下)からは、白いハートの形をした部分の南端に高度3,500メートルほどの山脈、南西部には高度1,000~1,500メートルの山脈があることが分かった。高度3,500メートルの山々は1億年ほど前につくられたと考えられる。またハート形の中心左にはクレーターがない広大な平原があるが、ここも1億年ほど前にできたと考えられる。ここではひび割れたような模様や、風によってできたと考えられる筋が見られた。冥王星の地表では風が吹いているのかもしれない。

フライバイ時に撮影された、ハート型の南端部の画像。50milesは約80km
(提供:NASA/JHU APL/SwRI)
フライバイ時に撮影された、ハート型の南端部の画像。50milesは約80km
(提供:NASA/JHU APL/SwRI)

驚きの発見ポイント3:活動の原動力への謎

 先述の平原は、窒素、一酸化炭素、メタンの氷に富んでおり、漂流する氷も発見されている。地表温度は-234.4℃だと分かっているが、この温度下では氷は地球の氷河のように流れることができる。太陽系の歴史は46億年前までさかのぼるが、冥王星には1億年というとても新しい地形が見つかったことから、冥王星の地表は現在も活動していると考えられる。しかしその原動力は何なのか。

 例えば木星の衛星のイオやエウロパでは火山活動や地殻変動が起きているが、これは木星の潮汐力によって内部が温められるためだ。しかし近くに大きな惑星がない冥王星には同じようなメカニズムは当てはまらない。われわれが知らないプロセスによるものだろう。

冥王星の氷の平原。(提供:NASA/JHU APL/SwRI)
冥王星の氷の平原。(提供:NASA/JHU APL/SwRI)

驚きの発見ポイント4:赤茶色のもやの正体

 火星同様、冥王星は赤っぽい色をしている。火星は地表に酸化鉄が多いためだが、冥王星は全く理由が異なる。この色の正体となる「もや」が撮影された。大気に含まれるメタンガスを、太陽からの紫外線が破壊し、トリンという炭化水素をつくり出す。このトリンが大気の低温部に下降すると、トリンガスは氷の粒になってもやとなる。これが赤い色をつくり出しているのだという。

 「このもやの写真を見たとき、驚いて開いた口が塞がりませんでした。カイパーベルトの中にこんな異質な大気をもつ天体があるなんて」とニューホライズンズの主任研究員Alan Stern氏は話す。

太陽系誕生のカギを握るか?今後も目が離せない

 ニューホライズンズは、来年4月までの期間、高解像度の画像や立体画像など膨大なデータを送ってくる予定であり、さらなる解析が進むだろう。また、冥王星は、現在は海王星以遠に氷天体が無数に存在する「エッジワース・カイパーベルト」天体の1つだが、ニューホライズンズは、2016年以降は他のエッジワース・カイパーベルト天体を観測する予定だ。このエリアには太陽系をつくる物質が、形成時当初の状態を保ったまま存在すると考えられている。

 NASAのJohn Grunsfeld氏はこのように語っている。「科学は冥王星系を近くで観測する大きな飛躍を果たした。そして太陽系の起源を理解するヒントとなる新たなフロンティアに飛び込んだのだ」

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