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新型コロナの累計死者は6万人、感染者は3000万人超 4年目を迎えても収束の見通し立たず

2023.01.16

内城喜貴 / 共同通信客員論説委員、科学ジャーナリスト

 2020年1月15日に新型コロナウイルスの感染者が国内で確認されて3年が経過した。4年目を迎えても国内のコロナ感染者や死者は増え続けている。1日当たりの死者数が500人を超える日もある。犠牲者の大半は高齢者で、特に持病がある高齢者にとって新型コロナはまだ怖い存在だ。統計に上がってくる第8波の新規感染者数は昨夏の第7波を下回っているが、死者数の多さから実際の新規感染者数は第7波を超えているとみられている。今年に入り死者は累計で6万人を超え、感染者も3000万人を超えた。累計感染者数は人口比で4分の1近くになる計算だ。

一日当たりの新型コロナによる死者数の推移。第8波は第7波を大きく上回っている(厚生労働省提供)
一日当たりの新型コロナによる死者数の推移。第8波は第7波を大きく上回っている(厚生労働省提供)

 一方、政府は新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、季節性インフルエンザと同等の「5類」への引き下げを検討している。だが専門家や医療現場からは現在の医療体制のままでの対策の大転換には否定的な声が多い。第8波は直近ではピークを超えつつある兆候も見られるが予断は許さない。インフルエンザとの同時流行の傾向も見られる中で、コロナ禍収束の見通しは依然立たないままだ。

1カ月余りで死者1万人増

 厚生労働省によると、国内で報告された新型コロナによる死者は新年早々の8日に累計で6万人を超えた。国内の死者は昨年2月に累計で2万人を超えた後、12月初めまで約3カ月に1万人程度のペースで増えてきた。そして昨年12月1日に5万人を超えた。以降1日当たりの死者数が200人台、300人台の日が出始め、わずか1カ月余りで1万人も増えてしまった。14日には503人と初めて500人を超え、同日現在累計死者数は6万2000人以上。残念ながら今後もハイペースで増えるのは確実だ。

 同省の統計によると、昨年12月初旬から約1カ月で6500人以上が死亡。年代別では80代が最も多く2600人余り、次いで90代、70代と続き、70歳以上が何と9割以上を占める。70歳を超えると何らかの持病を抱える人が多く、70代以上の持病がある高齢者にとって新型コロナは引き続き「怖い病」であることをこれらのデータが明確に物語っている。

新型コロナウイルス感染症による性別、年代別累計死者のグラフ(厚生労働省提供)
新型コロナウイルス感染症による性別、年代別累計死者のグラフ(厚生労働省提供)

 1月6日には24万6000人以上の新規感染者が報告され、累計で3000万人を超えている。厚労省によると、累計感染者数は1年前の昨年1月初めには200万人に満たなかった。しかしこの1年で2800万人以上増えてしまった。主な要因は現在でも感染ウイルスの大半を占めるオミクロン株の感染力の強さであることは明らかで、他の株が主流だった過去の流行と比較しても感染者数は桁違いに多い。

新型コロナウイルス・オミクロン株(左)と、インフルエンザウイルスのA型の一種で2009年に大流行したH1N1型の電子顕微鏡画像(国立感染症研究所提供)
新型コロナウイルス・オミクロン株(左)と、インフルエンザウイルスのA型の一種で2009年に大流行したH1N1型の電子顕微鏡画像(国立感染症研究所提供)

把握されない多数の感染者が潜在

 新規感染者数だけを見ると第7波より少ないのになぜ死者がこれほど多いのか――。この点について専門家は、昨秋に感染者把握を簡略化したために集計、統計として上がってくる数字は実態よりかなり少ないとみている。死者が多くなっている背景には第7波をかなり上回る感染実態があり、主に高齢者が犠牲になっているという。

 大曲貴夫・国立国際医療研究センター国際感染症センター長は12日開かれた東京都の新型コロナウイルスのモニタリング会議で「把握されていない多数の感染者が潜在している。職場や学校の(正月休みが明け)再開に伴う新規陽性者数の動向を注視する必要がある」と指摘した。

東京都の新型コロナウイルスモニタリング会議の様子(左から猪口正孝氏、大曲貴夫氏、小池百合子都知事、モニタリング会議中継動画から/東京都提供)
東京都の新型コロナウイルスモニタリング会議の様子(左から猪口正孝氏、大曲貴夫氏、小池百合子都知事、モニタリング会議中継動画から/東京都提供)

 また10日に行われた東京都医師会(尾崎治夫会長)の定例記者会見で、同会議メンバーでもある猪口正孝副会長も、自主的検査で陽性が判明した軽症者が東京都の感染者登録を行わない例がかなりあると指摘。実際の感染者数は集計数字より明らかに多いとの見方を示している。

第8波は続き、医療現場は逼迫

 新型コロナ対策を助言する専門家組織(座長・脇田隆字国立感染症研究所長)は新年最初の会合を11日に開催した。コロナ禍が年末年始にどう推移したかを整理、分析するためだ。この場で同組織はまず第8波の現状について「直近1週間の10万人当たりの新規感染者数は約934人で前週比は1.28。年が変っても感染者の増加傾向が継続し、高い感染レベルが続いている」 と総括した。

人口10万人当たりの新規陽性者(青い線)と同今週先週比(赤い線)の1年間の推移を示すグラフ(厚生労働省提供)
人口10万人当たりの新規陽性者(青い線)と同今週先週比(赤い線)の1年間の推移を示すグラフ(厚生労働省提供)

 病床使用率も全国的に上昇傾向にあって5割を上回る地域が多い。首都東京は約54%だが、神奈川県は約80%、福岡県は約78%で、栃木、埼玉、愛知、滋賀、広島、香川、愛媛、長崎、大分、鹿児島の各県が70%を超えてコロナ病床が逼迫(ひっぱく)している。こうした厳しい医療体制を反映して救急搬送困難事案数は増えて昨年夏の感染拡大のピーク時を超えている。専門家組織は「これまでの最高値を超える状況が続いている」と危機感を強めた。

1年間の病床使用率の推移(赤は入院者数/確保病床数、青は重症者数/確保病床数)(厚生労働省提供)
1年間の病床使用率の推移(赤は入院者数/確保病床数、青は重症者数/確保病床数)(厚生労働省提供)

 東京都医師会の記者会見でも発言した尾崎会長らは、医療体制が「相当逼迫している」との認識を示している。東京都では年末年始も入院患者は4000人を超え、医療スタッフが感染して就業制限を受けるケースも増加。体制確保が困難になった医療機関も多く、感染症状が悪化しても入院医療機関がなかなか見つからない状況になっているという。

 今後の見通しについて専門家組織は「全国的に感染者の増加が継続しており、一部地域を除き多くの地域で増加傾向の継続が見込まれる」とし、「今後(ワクチンや過去の感染でできた)免疫の減衰や免疫を逃避する株の割合の増加、また中国での感染状況などが与える影響に注意が必要」と指摘している。

懸念される派生型「XBB.1.5」の拡大

 国内で流行している新型コロナウイルスについて、厚労省の専門家組織は次のように分析した。「引き続きオミクロン株のBA5系統が主流になっているが、世界各地でウイルスのスパイクタンパク質に特徴的な変異を有するオミクロン株の亜系統(派生型)が複数報告されている。BQ.1系統、XBB系統、BM.1.1.1系統など、感染者数の増加の優位性が指摘されている亜系統もある。米国ではXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統が増加傾向にある」

 同組織は世界保健機関(WHO)の見解を引用する形で、XBB.1.5系統は免疫逃避があり、感染者増加の要因になっている可能性を指摘している。また「感染性や重症度に関する疫学的、臨床的知見はまだない」としつつ監視の重要性を強調している。

 10日の東京都のモニタリング会議ではより踏み込んだ報告があった。東京都内でXBB.1.5の感染例が15件確認されていることが会議の席上明らかにされ、米国や欧州での感染の広がりについて詳しく報告された。米国北東部ではXBB.1.5が約7割を占め、1月9日時点で、米国4111件、英国202件など世界全体で4770件の感染報告があるという。

 また同会議では欧州疾病予防管理センター(ECDC)の見解を引用する形で「北米や欧州ではこれまでのオミクロン株亜系統より、感染者増加の有意性が高いと推定」「高い免疫逃避性がある可能性がある」「ヒトの細胞に侵入するために入口となる受容体と結合しやすい可能性がある」とし、具体的に懸念材料を挙げた。

 WHOは11日、欧米を中心に38カ国から XBB.1.5感染例の報告があったと明らかにし、「米国のみのデータで信頼度は低い」と断りつつも「感染者増加の有意性が高い可能性がある」と発表している。

 東京都の会議の最後に小池百合子知事は「米国を中心に増加しているXBB.1.5の報告があったが(関係者は)引き続き注視するようお願いしたい」と述べた。

東京都の昨年1年間の感染流行の新型コロナウイルス株の割合。昨年秋以降第7波の中心になったオミクロン株BA.5の割合が低下し、別の亜系統の割合が増えているが、昨年12月時点ではXBB.1.5はまだごく僅かだ(東京都提供)
東京都の昨年1年間の感染流行の新型コロナウイルス株の割合。昨年秋以降第7波の中心になったオミクロン株BA.5の割合が低下し、別の亜系統の割合が増えているが、昨年12月時点ではXBB.1.5はまだごく僅かだ(東京都提供)

5類移行なら「段階的」に、と専門家組織

 政府は昨年秋から年末にかけ、新型コロナウイルスの感染症法上の分類見直しに向けた議論を本格化した。感染症法は感染力や症状の重篤度などに応じて感染症を原則1~5類に分類している。新型コロナウイルス感染症は危険度が2番目に高い「2類相当」の「新型インフルエンザ等感染症」に位置付けられている。

 現在、季節性インフルエンザと同じ5類への引き下げが検討されている。引き下げられれば、緊急事態宣言の発令などを定めた新型コロナ対応の特別措置法の適用対象から外れ、治療費の公費負担や行政による病床確保措置がなくなる可能性がある。新型コロナ対策の大きな転換となる。

 こうした政府の動きの中で新型コロナ対策を助言する専門家組織の主要メンバー15人が11日の会合で「新型コロナウイルス感染症対策に関する見解と感染法上の位置付けに関する影響の考察」と題した見解を公表した。

 見解はまず、オミクロン株の出現やワクチン接種の進展で重症化率や致死率は下がったものの、ウイルスの伝搬力(感染力)はむしろ強くなっており、感染者が増えたために死者数は極めて多くなっていると指摘。季節性インフルエンザと同様の対応が可能な疾患となるにはもうしばらく時間がかかると断じた。そして新型コロナという疾患の(時々の)特徴に合わせ、かつリスクに応じた対応策が重要とした。

 見解は5類に引き下げられた場合を想定。感染法上の入院措置がなくなることを前提に必要な入院治療を確保するための医療体制の再構築や見直しを求めた。さらに公費負担の法的根拠がなくなることから患者に過剰な費用負担とならない治療の安定的提供を求めている。このほか、流行状況の変化に応じた予防接種実施体制の確立や新たな変異株のモニタリング体制、サーベイランス方法の変更に伴う適切な感染者数推計法の構築が必要、などと指摘している。

 専門家組織の脇田座長は会合後に「感染法上の扱いを見直すとしても適切な対応を継続していかないと、感染の拡大によって大きな影響が出てしまう。新たに病原性が高い変異株が出現した場合は感染を防ぐためのしっかりした対応が必要だ」などと述べ、分類を見直すにしてもさまざまな課題があることを強調している。

脇田隆字氏(昨年8月2日に行われた日本記者クラブでの記者会見当時)(日本記者クラブ提供)
脇田隆字氏(昨年8月2日に行われた日本記者クラブでの記者会見当時)(日本記者クラブ提供)

インフルとの同時流行が現実味

 昨年から懸念されていたようにインフルエンザと新型コロナの同時流行が現実味を帯びてきた。国立感染症研究所は13日、全国約5000の定点医療機関からの報告で2~8日の1週間に報告されたインフルエンザの患者数が1医療機関当たり4.73人(患者報告数2万3139人)となり、前週から倍増したと発表した。山形県を除く46都道府県で、流行開始の目安となる1人を超えており、今後も流行が広がる勢いだ。

 地域別で見ると、最も多いのは沖縄県の17.77人で、宮崎県12.37人、佐賀県10.08人と年明け以降、新型コロナも感染拡大している九州での増加が目立っている。定点観測から推計する全国の患者数は18万人を超える。年代別では新型コロナと同様に20代が最も多い。ウイルスはAH3亜型が大半という。厚労省は少なくとも2月いっぱいは警戒が必要としている。

 厚労省関係者によると、全国の発熱外来からは新型コロナとインフルエンザの感染者で医療体制が逼迫しつつあるとの訴えが増えているという。厚労省の専門家組織も学校の冬休みが明けて再開していることから同時流行の拡大に警戒が必要としている。

 多くの専門家や医療関係者は、インフルエンザの感染防止対策は新型コロナ対策と基本的には同じで、引き続きマスクの着用や手洗い、アルコール消毒の実施、「密」の回避、換気の徹底などが大切としている。

予断を許さない今年のコロナ禍

 中国では累計で9億人が新型コロナウイルスに感染したとも伝えられている。昨年秋、特に12月以降急拡大したとみられるが、詳しい状況は不明だ。感染数が膨大になればそれだけ変異する可能性も高まる。中国で感染力や病原性がオミクロン株系統と異なる変異株が出現している可能性も否定できない。

 死者数の増加が続いている2023年のコロナ禍。「今後どうなるのか、対策はどう変るのか」は予断を許さない。現在の流行の第8波はいずれ収まるとみられるが、また新しい波が来ると予測する専門家は多い。当面はXBB.1.5などオミクロン株派生型の国内流入、拡大が懸念されるが、新たな変異株が中国を含めて世界のどこかで出現して国内に流入する恐れがある。

 最近の国内統計では、新型コロナに感染しても若い人の重症化率や致死率は季節性インフルエンザと大きな差はない。一方高齢者、特に持病を抱える高齢者の致死率はオミクロン株流行期でも依然高い。若年者と高齢者との間で「コロナの怖さ」は決定的に異なり「世代間格差」が著しい。

 厚労省の専門家組織のメンバーでもある東京大学医科学研究所の武藤香織教授は「新型コロナで亡くなるのはいずれもかけがえのない人びと」と強調し、感染法上の見直しに際して「国として『許容される死者数』などの目標設定をしてはならない」と訴えている。重い指摘だ。

 2023年の日本の、世界のコロナ禍がどうなるか――。感染症学やウイルス学の最新の知見をもってしても、これを予想することは難しい。現在行動制限は行われていない。政府も感染状況が劇的に変らない限り行動制限は行わない方針だ。

 年齢、健康度や生活環境は個人で大きく異なる。新型コロナとどう向き合い、どんな行動を選択するかは個々人の人生観や生命観・死生観にも関わる。正確な情報に基づいた一人一人の冷静なリスク評価やリスク管理が一層重要になった時代を迎えている。

厚生労働省が入った中央合同庁舎第5号館(千代田区霞が関)
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