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大隅さん支えた愛弟子水島さん ノーベル医学生理学賞受賞の偉大な業績に貢献

2016.10.05

内城喜貴

大隅良典さん(トムソン・ロイター提供)
大隅良典さん(トムソン・ロイター提供)

 長く基礎研究を続けて生物が生命を維持するための基礎的な現象を解明した大隅良典(おおすみ よしのり)東京工業大学栄誉教授が今年のノーベル医学生理学賞の栄誉を手にした。日本人3年連続、日本の自然科学系3賞合わせて25人目の受賞となったが、単独受賞は1949年の湯川秀樹(ゆかわ ひでき)氏(物理学賞)、87年の利根川進(とねがわ すすむ)氏(医学生理学賞)に次いで3人目の快挙だ。細胞が自分自身で不要なタンパク質を分解して栄養源としてリサイクルする「オートファジー」(自食作用)の仕組みを解明した。その偉大な業績は、ひたむきな探求心をエネルギーにこつこつと研究を続けて得られたものだった。

 こうした地道な研究が大きく進んだ1990年代後半の大隅さんを支えたのが愛弟子であった東京大学大学院医学系研究科教授の水島昇(みずしま のぼる)さん(50)だった。大隅さんがノーベル賞候補として名前が挙がると「水島さんは共同受賞者では」とも言われた。大隅さんの受賞が決まった10月3日夜、水島さんは東京大学の研究室に詰めかけた報道陣に「(私が)貢献しているなら嬉しい」と率直に恩師の栄誉を喜んだ。大隅さんと合わせて水島さんの輝かしい研究成果をたたえたい。

 1988年に大隅さんは東京大学教養学部の助教授になり、初めて小さな研究室をもらった。光学顕微鏡をのぞく研究生活を送っていたそんなある日、酵母の不思議な動きに気づいたという。自身の研究史に残るオートファジーの現象を発見した瞬間だった。オートファジーの大まかな概念は1960年代から提唱されていたが、詳しいことは不明だった。多くの研究者があまり関心を持たない中で大隅さんは米国留学中の76年に酵母の研究を始め、日本に帰国してからも「酵母一筋」と言える研究を続けた。オートファジーの現象を初観察した後も現象の詳しい過程を新しい電子顕微鏡で探求し続け92年に論文を発表した。

 水島さんは東京都出身で1991年に東京医科歯科大学医学部医学科を卒業した。大隅さんは96年に基礎生物学研究所の教授に就任したが、その翌年に当時東京医科歯科大学研究員だった水島さんは大隅さんの論文にひかれて研究室を訪問。弟子として共同研究を始め、2004年までオートファジー研究を支えた。この間2人はオートファジーを起こす酵母の遺伝子の働きを解明して英科学誌に発表。水島さんはマウスの実験を始めて哺乳類の生体にとっても重要な働きをしていることなど、オートファジーの現象の謎を次々と明らかにしていった。

 水島さんは大隅さんの研究室から独立した後も恩師と交流しながら、生物にとって生命維持上基礎的なこの仕組みの研究を続けた。ある種の神経疾患(SENDA病)がオートファジー遺伝子の変異が関係することを明らかにしている。ヒトで初めて確認されたオートファジー遺伝子異常の疾患という。こうした研究成果を挙げて大隅さんによる大発見の意義を側面から支え続けてきた。2012年からは東京医科歯科大学から東京大学に移り教授とし現在も第一線の研究者だ。

 2人が出会った基礎生物学研究所での共同研究生活は、大隅さんのオートファジー研究史の中でも特筆すべき時期と言えるだろう。

 水島さんは2014年の9月、科学技術振興機構(JST)理事長定例記者説明会での講演でオートファジー研究について詳しく、分かりやすく解説している。

水島昇さん(2014年9月にJSTでの講演)
水島昇さん(2014年9月にJSTでの講演)

 「われわれ人間は約60兆個の細胞からできていて、しかも細胞の中には小器官やタンパク質が入っています。すべての階層で入れ替えが起こっています。人間の入れ替えは会社や組織でも大事です。人が入れ替わることで、健全さが維持されます。細胞も入れ替わっていますし、細胞の中ではタンパク質も入れ替わっています。こういう入れ替わりによって、細胞の新鮮さや健全さが保たれています」

 オートファジーは最近ではがんのほか、アルツハイマー病やパーキンソン病など神経の疾患との関連も指摘されている。

 講演で水島さんは次のように解説した。「細胞内の浄化作用はヒトの疾患と密接に関連することが考えられます。なぜなら、ヒトの多くの神経疾患、ハンチントン病やアルツハイマー病、パーキンソン病は細胞の中に異常なタンパク質やミトコンドリアが蓄積することが原因か、あるいは、特徴のひとつと言われているからです。こういうものを取り除くことができれば、根治と言わなくても、症状の進行を遅らせることができるわけです。私たちだけじゃなくて、世界中の研究者がオートファジーを活性化すれば、発症を遅らせることができるのではないかと考えて研究しています」

 オートファジーの異常ががんやアルツハイマーなどの病気にも関係があることがだんだん分かってきたが、まだまだ未解明なことも多い。水島さんは今年50歳になったばかり。大隅さんも水島さんも、すぐに疾患との関係を明らかにする研究に注目するのではなく、生命活動を維持する上での基礎的なこの現象の解明を今後も続ける重要性を指摘している。2人が今回ノーベル賞受賞対象となった研究をさらに大きく発展させてくれるとの期待が広がる。

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