レビュー

温暖化防止とオゾン層保護の同時達成を目指して 代替フロン段階的削減

2016.07.28

内城喜貴

 「代替フロン」はオゾン層を破壊するフロンに代わる新しい冷媒の決め手として世界的に普及したが、強い温室効果を持つことが最大の難点だった。オゾン層を保護するための国際条約「モントリオール議定書」の特別会合が22日から24日までウィーンで開かれ、環境省関係者らによると、議定書を改定して代替フロンを段階的に削減する方針で一致したという。10月にウガンダで開かれる議定書締約国会議で代替フロン削減が正式に決まる可能性が高くなった。オゾン層保護を引き続き目指しながら、昨年12月に採択された温暖化防止のための「パリ協定」とも連携する国際協調の動きと言える。また、日本を含めた先進国では代替フロン規制を先取りして漏えい対策の徹底や新たな代替冷媒の普及を目指す動きもみられる。

 代替フロンは、モントリオール議定書(1987年採択)で全廃が決まった特定フロンに代わる化学物質の総称だ。「ハイドロフルオロカーボン」(HFC)が代表格で、温室効果は二酸化炭素(CO2)の数百〜数千倍以上高いとされる。代替フロンは主に冷媒用に広く普及しているほか、建築用の断熱材などにも使われている。

 7月初めに米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが「オゾン層は2000年以降回復しつつある」と発表した。特定フロンに代わって冷媒の主役となった代替フロンの果たした役割は大きかったが、温室効果があまりにも強く、エアコンや冷蔵庫から少しずつ漏えいして上空に上昇するという重大な問題を抱えていた。このためオゾン層保護と温暖化防止という地球環境保護の二つの重要課題を同時に達成するために代替フロンの使用を規制して漏えい防止対策の徹底のほか、新たな代替冷媒を開発する必要性が国際的に指摘されていた。そうした流れの中でモントリオール議定書の改定による代替フロンの段階的削減の動きが加速した。

画像 米航空宇宙局(NASA)が公開している2016年6月28日のオゾン層の状態。はっきりりとしたオゾンホールはみられない(NASA提供)
画像 米航空宇宙局(NASA)が公開している2016年6月28日のオゾン層の状態。はっきりりとしたオゾンホールはみられない(NASA提供)

 温暖化防止と代替フロンの関係については、パリ協定の前の国際的枠組み「京都議定書」で先進国の代替フロン排出を規制したものの、使用量が多い米国、インド、中国などは規制の対象外だった。しかし、パリ協定採択を契機に世界が一致して温室効果ガスの排出量を削減する動きに弾みが出てきた。5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言は「2016年中の改正モントリオール議定書の採択を支持し、採択後は議定書の多数国間基金を通じて追加的支援を提供する考えである」と明記した。

 こうした「前進」を受けて今回ウィーンで開かれた特別会合には約200の議定書締約国が参加し、HFCなどの代替フロンを規制する方向では一致したという。インドなども議定書改定そのものには反対せず、先進国対発展途上国の構図を中心にした各国の対立点は、削減スケジュールや途上国向けの資金支援の在り方などだったという。今後使用量の増加が見込まれる発展途上国の多くは急速な代替フロン削減には基本的には反対しており、先進国からの資金支援を求めている。以前見られた温暖化防止のための国際交渉と似た構図だ。

 このため10月のモントリオール議定書締約国会議では代替フロン削減の「各論」として削減スケジュールや資金支援が議定書改定合意の鍵になるとみられる。締約国は同会議前に特別会合を重ねて妥協点を探る動きも出ているという。

 日本国内では地球規模のフロン規制を先取りした動きも盛んになっている。環境省や経済産業省は、国内から排出されるHFC量は2020年には15年時点の2倍になるとみている。政府は「フロン回収・破壊法」を改正、新たに「フロン排出抑制法」と命名した改正法を昨年4月に施行し、業務用のエアコンや冷凍冷蔵機器の管理者(第1種特定製品管理者)に機器の適切な管理のほか漏えい量の報告なども義務付けた。対象となる管理者は3カ月に1回以上の簡易点検を行う必要がある。また機器の点検や代替フロンの充てん、回収などの履歴を保存すること、さらに点検によって漏えい量が一定量を超えると国に報告することも義務化された。漏えい量は、点検の際に推定使用量と充てん量などから算出する。

 このように日本の国内規制はかなり厳しく、環境省はモントリオール議定書による代替フロン規制を先取りする形で「ノンフロン機器導入促進策」を進めている。これに対応する企業側の好例も見られる。業務用冷凍冷蔵機器を多く扱うイオングループはフロン機器を一元管理して代替フロンの排出量管理を徹底。さらに代替フロンに代わる新たな自然冷媒を使用した機器導入も進めている。またコンビニ大手のローソンは既に自然冷媒のCO2を使った冷凍冷蔵庫を導入し、導入店舗を増やしているという。

 新たな代替冷媒として有力なのはCO2のほか、アンモニアや炭化水素などがあるが、現時点ではコストが高くなるのが難点で、アンモニアは漏えい時に毒性があるため徹底した管理が求められること、炭化水素は燃焼しやすいことなど個別の問題もある。このため安価で安全な自然媒体の開発、実用化が「代替フロン規制後」の大きな課題と言える。

図 改正フロン法(フロン排出抑制法)の概要(環境省提供)
図 改正フロン法(フロン排出抑制法)の概要。(注)図中の「現行フロン法」は改正前の法律。(環境省提供)

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