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新元素の命名権獲得は日本科学界の悲願だった

2016.01.05

内城喜貴

 日本の科学界にとって長年の悲願だった新元素の命名権を理化学研究所(理研)の研究グループが獲得した。国際学会の「国際純正・応用化学連合(IUPAC)」が昨年大晦日の31日、原子番号113番の新元素を合成したのは理研仁科加速器研究センター超重元素研究グループディレクター兼九州大学大学院理学研究院教授の森田浩介(もりた こうすけ)氏らである、と認定、理研に報告した。ビッグニュースは新年元旦の新聞各紙に大きく掲載された。理研グループは、2004年、05年、12年、と3回113番元素の合成に成功したが、米国とロシアの共同グループも合成、発見を主張して10年以上も命名権獲得競争が続いていた。新元素の名前は「ジャポニウム」「リケニウム」などが浮上しており、今後理研が提案する名前が正式に認定されれば元素の周期表に記載される。新元素を合成することは「究極のものづくり」とも言われる。今回の認定は、日本の基礎科学力ばかりでなく、新元素合成装置の実力を含めた科学技術の総合力を世界に示すことができる快挙といえる。

 元素は、物質を形作る最も基本的な要素だ。酸素、水素、炭素、鉄、ヘリウム…。すべての物質は元素でできている。元素の種類は原子番号(陽子数)で決まる。ロシアの化学者メンデレーエフが初めて作成した周期表には、63種類の元素しか記載されていなかった。その後、自然界で元素が見つかり、自然界で見つかった元素は92番のウランが最後。プルトニウムなどのウランより重い元素は加速器や原子炉を使って人工的に合成された。今回理研の113番を含め新たに4種類が新元素と認定された。元素の総数は118になった。

 森田氏は、九州大学理学部を卒業後1984年に理研に採用され、その後仁科加速器研究センター超重元素研究グループのリーダーになるが、一貫して新元素発見の研究努力を続けた。理研の新元素発見計画は「ジャポニウム計画」と名付けられ、2000年ごろから本格的に実験を続けてきた。

 新元素を合成するためには、強力なエネルギーを使って小さな原子核をぶつけ、その結果ごくまれにしか生じない反応を検出する粘り強い実験が必要。理研の研究グループは、03年から原子番号30番の亜鉛の原子核をビームにして同83番の元素ビスマスにぶつけて核融合させる実験を続けた。使われた装置は最新の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」の重イオン線形加速器「RILAC」。原子核同士は正の電気を持つために反発する。このため、加速器で勢いを付けてぶつける必要があるが、その衝撃でばらばらになりやすく極めて微妙なさじ加減で調整する実験が必要だった。実験回数は50兆回に及んだという。森田氏らはこうして気の遠くなる回数の実験を繰り返して04年に113番元素合成を成功させた。新元素を合成した成果は当時も大きな科学ニュースとして伝えられた。

 しかし、米ロ共同グループも同じ04年、理研に先駆け113番元素を合成した、と発表していた。理研グループはその後も努力を続け、05年、12年にも合成に成功した。米ロ共同グループとの競争では、理研グループのデータがより確実と判断されたようだ。人工的に合成した元素は不安定な状態になる。合成されても瞬時に崩壊して別の元素になり、その元素もまた崩壊する。新元素合成を証明するためには、崩壊を繰り返した最後に既存の特定の元素になったことを確かめる必要がある。米ログループは、合成した新元素が崩壊した後に最終的に既存の特定の元素にならなかった、という。

 理研グループは、3個合成した上、崩壊の仕方も詳細に究明したデータの信頼性が評価された。今後、理研が提案する113番新元素名と元素記号をIUPACなどが審査し、新元素名の正式決定は約1年後になる見通しだ。

 日本には、1908年に故・小川正孝(おがわ まさたか)博士が新元素43番を見つけたとして「ニッポニウム」と命名したが、合成が再確認できなかったため、発見、命名そのものが取り消された歴史がある。また元理研理事長の故・仁科芳雄(にしな よしお)博士も40年に新元素93番を合成したが実験は不十分で、米国研究者らが命名権を獲得した。日本の科学界にとって新元素の合成、発見、命名は悲願だった。

 理研グループには、東北大学、山形大学、新潟大学、東京大学、東京理科大学、筑波大学、埼玉大学、大阪大学、日本原子力研究開発機構などから多数の研究者が参加した。森田氏は、2005年に新元素合成の功績により、物理学分野で優れた業績を挙げた研究者に贈られる仁科記念賞を受賞している。

 理研は「ロシアの研究グループと並んで、理研は世界の超重元素研究をけん引する立場にあり、今後も加速器の改良を進めてこれらの研究に挑戦していく」としている。

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