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もんじゅ廃炉は現実的な選択肢か

2015.11.30

中村直樹

 原子力規制委員会は13日、馳浩(はせ ひろし)文部科学相に高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転主体を見直すよう勧告した。勧告文では「日本原子力研究開発機構については、単に個々の保安上の措置の不備について個別に是正を求めれば足りるという段階を越え、機構という組織自体がもんじゅに関わる保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有していないと言わざるを得ない」と厳しく指摘した上で、半年をめどに、同機構に代わる新たなもんじゅの運転主体を特定するか、もんじゅのあり方そのものを抜本的に見直すよう求めている。

 こうした事態に至ったことについて、ちまたではさまざまな議論が起こっている。国会では、一部の野党が「1日5,000万円も使って何の成果も生み出さないもんじゅは無駄だから廃止すべきだ」と主張したり、報道の中でも、もんじゅ廃炉の議論がみられる。では、もんじゅの廃炉は現実的なことなのか、今一度原点から考えてみたい。

写真.田中俊一(たなか しゅんいち)原子力規制委員長から勧告を受け取る馳文部科学相
写真.田中俊一(たなか しゅんいち)原子力規制委員長から勧告を受け取る馳文部科学相

 まず考えるべきことは、日本として核燃料サイクルを継続するかどうかという選択肢だ。もんじゅは、核燃料サイクルの一環として進められている高速増殖炉プロジェクトであるため、この核燃料サイクルをやめるとなれば、当然、もんじゅは廃炉となる。

 原子力発電所でウランを燃やすと使用済み燃料が出る。この使用済み燃料の中には、核分裂していないウランや、原子炉内で生まれたプルトニウムが含まれている。これらを再処理して取り出し、燃料として再利用する、つまりリサイクルするという一連の流れを核燃料サイクルという。資源の有効活用という側面のほかに、安全保障上の問題としてプルトニウムを核燃料という使用目的外で持たないために必要なシステムである。

 プルトニウムは核兵器の材料になるため、もし、日本が核燃料サイクルをやめるという選択をすれば、それは世界から見れば「日本が核保有国になる」という選択をしたことと同義に受け止められる。なぜなら日本には十分な量のプルトニウムと必要な技術があるためだ。当然、日本政府からすれば、あり得ない選択肢であるといえる。

 次に、もんじゅを廃炉にして新しい高速増殖原型炉を建設するという選択肢もある。新しければ新しいだけ、安全性も高い。しかし、安全性の向上とコストの上昇は比例関係にある。関係者によると、建設当時のもんじゅの建設費は4,000?5,000億円程度だが、現在の安全基準で造ろうとすると1兆円を超えるものになるという。もんじゅ建設当時の軽水炉の建設費は3,000?4,000億円程度であった。しかし最新の軽水炉では、原子炉格納容器が二重になり、壁のコンクリート厚も80センチメートルから2メートル程度に、さらに事故で溶け落ちた燃料棒を受け止めるためのコアキャッチャーの標準化など、設計そのものが安全性向上のための多重構造になっている。その分、コストも上がり、1基当たり8,000億〜1兆円程度といわれている。高速増殖原型炉についても同様の安全設計に基づいて建設すると、軽水炉以上に高額になることは容易に想像できる。

 また、同様の高速増殖原型炉を造るとなると、どこに造るのかという、新たな問題も生み出してしまうし、その後、もんじゅも含めて高速増殖原型炉2基分の廃炉を行なわなければならないため、コストはさらに上がることになるだろう。来年度は財政健全化元年であり、財政負担をいかに減らすのか、政権としても頭を悩ませている時期にこの選択肢はあり得ないだろう。

 それなら原型炉のもんじゅを廃炉にして、次の段階である実証炉を造ってしまえばよいという議論もある。しかし、そのための前提条件として、原型炉でナトリウム取り扱い技術のノウハウを蓄積している必要がある。だが、もんじゅの運転実績が足りないため、このまま実証炉を作るとしたら危険なものになってしまい、重大事故が発生しかねない。高速増殖炉のナトリウム取り扱い技術は、フランスやロシアなどでは蓄積しているが、軍事機密レベルの情報であるため、教えてくれといっても無理な話だ。自ら獲得する以外に道はない。

 そうなると、もんじゅを再稼働し、数年間運転して必要なナトリウム取り扱い技術を取得した後、廃炉にするというのが最も現実的な選択肢ということになる。

 では、どうすれば再稼働できるのか。もんじゅの運営主体である日本原子力研究開発機構では駄目だ、というのが原子力規制委員会の結論である以上、原子力機構そのものが再稼働するというのはあり得ない。すると、電力会社などの民間事業者が運営するのが良いのではないか、という話になるが、彼らは軽水炉の運転については実績とノウハウを持っているものの、高速増殖炉の運転というのは未経験だ。高速増殖炉という特性上、ナトリウムの取り扱いについてのノウハウが、どうしても必要になる。

 そこで考えられるのは、民間事業者の技術者が管理やメンテナンスを行い、ナトリウムの取り扱いについては原子力機構の技術者や研究者が行う、新たな組織を立ち上げるというのが現実的な選択肢であるといえる。ただしその際、もんじゅの保安規定については見直す必要があるだろう。規制委員会が指摘するように、もんじゅではこれまで数多くの保安規定違反が行われてきた。中には重大な問題もあったものの、違反のほとんどは、安全そのものとは直接関係しないようなものだ。これは、文部科学省と日本原子力研究開発機構が問題点を指摘されるたびに保安規程の内容を追加してきたためだが、研究開発段階の原型炉には必要のないものも多い。そのため、新組織において本当に必要な保安規定を整備し直さなければ、再稼働したとしても、当然のようの保安規定違反が発生し、また止まってしまうことなることは想像に難くない。

 50年後の世界では、原子炉や高速増殖炉に取って代わるような全く新しいエネルギー源が生まれているかもしれないが、それは誰にも分からない。われわれの子や孫の世代においても日本が一定程度以上の国際競争力や経済力を維持していくためには、現在の現実的な選択肢の中で何が本当に必要なのかを真剣に議論すべきではないだろうか。

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