NHKラジオの早朝番組「ビジネス展望」で今朝、評論家の内橋克人氏が「バブルの夢」と題して話をしていた。「3本の矢というが、実際は2本の矢でしかない」とアベノミクスに厳しい批判を加えている。
3本の矢というのは、「大胆な金融政策」「機動的な財政策」と「民間投資を喚起する成長戦略」を指すが、3番目の矢がないから結果は危ういものでしかない、という。たまたまその後、週刊エコノミスト4月2日号を読んだら、桐山友一編集部員が似たようなことを書いていた。
「経済理論の枠組みから考えれば、アベノミクスはそれを超越しているようにみえる」
最初の2本の矢は、ケインズの理論によっているのに、3本目の矢はケインズ経済学とは相いれない。従って、アベノミクスは「壮大な“経済実験”の始まり」と。
浜矩子同志社大学教授も、前の週のTBS番組「時事放談」の中で、確か「経済成長の時代ではなく、成熟時代に合った政策が必要」といった提言をしていた。経済学者の中にも、アベノミクスの行く末を不安視しする人たちも少なくない、ということだろう。
問題は、こうした学者・評論家の論争と関係なく、日本社会が安倍首相の政策にすばやく反応している、ということではないだろうか。国民の株式投資も増えているらしいし…。ここで思い出すのが、5年前ハイライト欄に掲載した丹羽宇一郎・元中国大使の講演要約記事「人と技術しか日本の再生はない」である。当時、丹羽氏は伊藤忠商事取締役会長で、内閣府の地方分権改革推進委員会委員長も務めていた。
氏の講演が科学技術振興機構イノベーションプラザ東海で行われたのは、2008年10月10日のこと。前年に米国でサブプライムローン問題が起き、大騒ぎになっていた時期だ。丹羽氏は講演の中で次のように言っている。
「サブプライムローンというのは、住宅価格が永遠に上がるというのが前提になっている。払えない可能性がある人の住宅に金を貸したわけだから、案の定、住宅価格が下がった途端に金を返せなくなった人がどんどん出てきた。この影響が欧州にも広がり、今やどこまで広がったかも分からず、だれも信用できなくなっているというのが現状だ」
では、日本人はどうすればよいのか? 氏の結論は、簡潔明快だった。「いつも原則に戻れ、原点に戻れ、ということだ。経営の原則、原点とは、慎ましく、おごることなく着実に働くこと。それだけだ。そもそもこうすれば絶対によくなるなどということは世の中にない」
中国大使を辞めた後、丹羽氏がメディアで活発に発言するようになったのは、うれしい。大使が外務省と一部他省の官僚しかなれない限り、大使や元大使から一般国民に知らされる肝心な情報もまたごく限られたものでしかない、というのが実態だろう。
週刊誌「AERA」4月1日号で、氏は次のように言っている。このように分かりやすく語ってくれるのも、民間出身の元大使だからではないだろうか。
「習近平氏が改革をやらない限り、中国が本格的に安定した経済発展を続けられるとは思えない」「今回の人事を見ると、習氏はまだ支持基盤ができていない」「改革をするには、次の指導部が選出される5年後までに習氏が支持基盤を持つことが大切」
中国新指導体制についての評価は、少なくとも5年くらいの長い物差しで見る必要がある、ということだろう。
前述の講演で、丹羽氏はサブプライムローン問題を起こした米国が、過去同じようなことを繰り返していることを指摘し、次のようにも言っていた。
「バブル-崩壊-バブル-崩壊を繰り返し、そのたびにもうける人もいれば損をする人もいる、ということを繰り返しているわけだ。今は住宅バブルの崩壊時期になっている。膨張したところはそれに応じて縮小せざるを得ない。そう考えれば驚くことはない」
実は、どうしようか迷った挙句、記事をまとめる段階で省いてしまった前段の言葉がある。
「経済というのは、理屈通りには動かない人間の行動の結果。経済学者が考えるように動くわけはない」