レビュー

編集だよりー 2013年2月18日編集だより

2013.02.18

小岩井忠道

 小惑星が地球をかすめるというニュースには、あまり関心はなかった。しかし、ロシアへの隕石落下には、驚く。落下しつつある隕石の飛跡や地上の被害の様子を示す映像を見ながら思い出した人がいる。水爆の父とも呼ばれるエドワード・テラー博士(故人)のことだった。

 テラー博士は、第二次大戦中、ルーズベルト米大統領に原爆開発を進言し、「マンハッタン計画」に関わっただけでなく、大戦終結後は水爆の開発を主導したことで知られる。しかし、編集者が関心を持ったのはそれとは違う。小惑星が地球に衝突する場合に備えた対策の必要を唱えていたらしいからだ。

 20数年前の話だが、あるニューズレターにテラー博士のことが載った。小惑星が地球に衝突するのを防ぐ対策を国際協力で考える必要を提言している、と書いてある。地上からロケットを打ち込んで軌道をそらせる防護策を…。確か、そんな話だった。面白いが、にわかには真に受けにくい。ニューズレターの発行者に電話をしてみたら「テラー博士自身に聞いてみたら」という冷たい返事。無論、わが英語力を考え、そんな畏れ多いことはしなかった。

 あらためてウィキペディアで調べてみたら、テラー博士は核開発で中心的な役割を果たしただけでなく、レーガン大統領が1983年にぶち上げた戦略防衛構想(SDI、人気映画にちなみスターウォーズ計画と呼ばれた)も強く支持している。ニューズレターで博士の記事を読んだのは、SDI計画の是非が米国内で大きな論議になっていたころだ。しかし、SDIというのはソ連(当時)に対する対抗策である。一方で、小惑星衝突には国際協力で、というのが釈然としない。西側陣営だけでやろう、ということだったのだろうか。それとも、東西対立などもうやめて、地球存亡にかかわる脅威に対する防衛策を人類全体で作り上げようという考えに至った、ということだったのだろうか。

 ついでにもう一人思い出した方が、高橋正樹・日本大学文理学部地球システム科学科教授だ。1日に日本学術会議で開かれた学術フォーラム「自然災害国際ネットワークの構築にむけて:固体地球科学と市民との対話」で、超巨大噴火というこちらもそら恐ろしい災害への対応に触れていた。

 阿蘇山で過去に起きた最大規模の噴火(9万年前)は、米国イエローストーンで過去に起きた超巨大噴火に比べるとマグマ噴出量が一桁も少ない。しかし、「九州のほとんどが火砕流の直撃を受けるとともに、日本列島全体が層厚15センチ以上の火山灰によって覆われてしまった」というのだ。もし、同じ規模の噴火が再び阿蘇山で起きたら、九州だけで死者は1,000万人近くなるだけでなく、日本全体の農業生産、経済活動も完全に崩壊し、国民の多くは難民として諸外国に引き取られる事態になるだろう、とのこと。

 さらに地球全体でみると、阿蘇よりさらに大規模なスーパー噴火も起こる可能性がある。噴出して成層圏に長期間とどまる微小な硫酸エアロゾル(二酸化硫黄が光化学反応によって変化してできる)によって「火山の冬」といった事態に陥るというのだ。こうなると平均気温は10℃近くも下がるというから、日本がどうこうといった話ではない。

 世界が一致して小惑星衝突を回避させる防衛システムを構築する—。テラー博士が20数年前に考えたらしい構想の方が、まだ現実味があると思われてきた。

 35カ国325人の現役・元宇宙飛行士から成る「宇宙探検家協会(Association of Space Explorers)」も、2008年11月に「小惑星の脅威(Asteroid Threats: A Call for Global Response)」と題する報告書を国連に提出して、世界規模の対策を求めているそうだし…

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