レビュー

編集だよりー 2013年2月6日編集だより

2013.02.06

小岩井忠道

 「檄(げき)を飛ばす」「すべからく…すべし」と言った表現は、気軽に使いにくく要注意。というより、誤用されるケースが相当ありそうなので、使わないことにしている。誤用が多いということは、正しい意味で使ったのに「なんだ間違っているではないか」と誤解される恐れもまたあるということだろうから。

 編集者が長年、頼っている共同通信社発行の「記者ハンドブック—新聞用字用語集」には、「『げきを飛ばす』は激励の意味ではない」「『すべからく』は、当然、ぜひという意味」といった注意書きがついている。仮にどうしても使わなければならないとしても、迷うことはない。

 困った経験があるのは「垣間見る」という表現だ。サイエンスポータルの記事ではなく、隣の課が出している雑誌の記事の校正を頼まれた時の話である。「垣間見える」という表現があった。「記者ハンドブック—新聞用字用語集」には「『垣間見せる』『垣間聞く』は誤用」とはっきり書いてあるのだが「垣間見える」については触れていない。ほかの辞書なども当ってみたがはっきりせず、結局「誤用の可能性あり」という注意書きをつけただけで、そのままにしてしまった。多分、修正されずに印刷されてしまったと思われる。

 旧知の元静岡放送報道制作局長、小塚博氏から3月1日発売の著書「きょうから直したい言葉遣い」(文芸社)を早々と送っていただいた。氏は2003年から6年間、静岡放送で「言の葉磨き講座」を主宰したそうだ。以来、書き留めていたものを本にまとめたという。最初から「ウーム、こいつは自分もうっかり、あるいは完全に間違って使っていたかも」という言葉遣いが次々に出てくる。

 「垣間見える」もやはり誤用とされていた。「字の通り『カキマミル』のイ音便で、ものの隙間からそっと覗き見ることだ。…本来の意味から離れて『分かる』の意の『見る』と同じに考えてしまったのではないか」という解説がついている。

 編集者が多分、何度か間違って話したり、文字にしていたと思われる表現は「潮のみちひき」である。「潮の満ち干」が正しい、と書いてあった。「○○を輩出した」などは、完全に間違って使っていた例だ。「○○が輩出した」が正しい。

 さらに「暗雲が立ち込める」(煙や霧・霞と違い雲が立ち込めることはない)、「上へ下への大騒ぎ」(「上を下への大騒ぎ」が正解。なるほど!)、「深い絆」(絆は、もともと動物をつなぎとめる綱だそうだから、確かに太い、強い、固いといった形容詞でないとおかしい)、「見聞を深めた」(見聞は広めるもので、深めるものではない)…。

 これ以上、書き続けると、サイエンスポータルの編集担当をやめろ、という声が寄せられそうだから、この辺でやめておこう。

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