レビュー

編集だよりー 2012年12月17日編集だより

2012.12.17

小岩井忠道

 「行政記事はますますつまらなくなるかも」。事前の予測通り自民圧勝という選挙結果から、まず感じたことだ。通信社記者としての古い経験から思ったことだから、こちらは予測が外れることを願うばかりだが…。

 編集者が、科学技術行政を取材していたころは、自民党が衆参で過半数をとっていた。科学技術政策といっても、科学技術庁(当時)が担っていたのはごく一部でしかない。研究開発段階の原子炉、核燃料サイクル、核融合を除いたエネルギー開発や、環境、医療、農水産、基礎研究などにかかわる政策はそれぞれ別の役所の所管だったので、ほとんど手が付けられなかった。ということで、科学技術庁が関係することがらに関しての話だが、重要なことは科学技術庁と自民党科学技術部会で決められ、一部が年末の大蔵省(当時)との交渉に持ち込まれるというのが実態だった。一般国民から遠い、「科学技術政策ムラ」内の駆け引きのようなものだ。

 結局、情報の多くを自分が担当する役所の人間に頼らざるを得ない、というのが実態だったことを思い出す。「そんなことはないだろう。審議会の委員など役所外の人間から情報を得たらどうか」。行政の仕組みに詳しい人からそうした苦言が寄せられるかもしれない。しかし、審議会の委員というのはしょせん、役所が選んだ人たちだ。「日本の審議会方式の大きな問題のひとつは、用意される資料や議論の進め方が官僚主導ということにある。最初から議論の条件設定がある中では、自由な発想など出てきにくい」。日本学術会議の高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会の委員長として、「原子力委員会審議依頼に対する回答『高レベル放射性廃棄物の処分について』」 という提言をまとめた今田高俊・東京工業大学 社会理工学研究科教授も言っている。

 取材で得た情報も、結局、行政に都合の悪いものはほとんどない。多くの国民が知りたいこととはだいぶ違う、という結果になりがちということだ。

 では、立法府(国会)はどうか。編集者が取材していたころ、衆参両院に科学技術特別委員会というのがあった。しかし、そこで自民党の委員が、役所の高官を立往生させるような質問をすることはほとんどない。委員は自民党科学技術部会員でもある人が多く、大事なことを記者が傍聴しているところで役所とやり取りする必要などまずないからだ。反原発の姿勢が鮮明な一部の社会党(当時)委員の質問の時は、「ひょっとして記事になるかも」と聞いている記者たちもいる。しかし、電力労連を後ろ盾にしている民社党(当時)委員の質問が始まると、ぞろぞろ退出してしまう。そんな風景が当たり前のようにみられた。国会の委員会に、科学技術行政のチェック機能を期待する記者は、ほとんどいなかったのではないだろうか。

 民主党は「官僚を使いこなせなかった」と批判された。しかし、与党と行政府が一体となってしまうと、チェック機能がひどく働かなくなるという面があることもまた事実ではないか。与党の議席数が多くなればなるほど、役所は与党だけ気にしていればよい、となるのは避けられないだろうから。

 となると、政策に対するチェック機能としてアカデミズムの責任が一層重くなるとしか思えない。日本学術会議にその覚悟はあるだろうか。

 前述の日本学術会議・高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会提言は、現在の原子力政策でうたわれている高レベル放射性廃棄物の地中処分に疑問を投げかけ、「暫定保管」という新しい選択肢を示した。メディアも大きな関心を示したのは、各府省の息のかかった審議会の提言ではなく、日本学術会議が独自の責任で選んだ委員から成る検討委員会の検討結果だからだろう。

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