レビュー

編集だよりー 2012年11月9日編集だより

2012.11.09

小岩井忠道

 茨城県県人会連合会主催の視察研修会に参加し、茨城県西部の五霞(ごか)町、古河市、結城市を8日、バスで回ってきた。

 経歴、知名度ともどうということのない人間としては、実におこがましい話だが、茨城県県人会連合会常任理事という要職を仰せつかっている。若輩としては、こうした行事に率先して出るくらいしないと、海老沢勝二会長(元NHK会長)をはじめとする、功成り名を遂げた大先輩たちからいつしかられるか分からない。というのは半分冗談で、実際には毎回、面白く、ためになる視察研修会なのだ。

 周囲を見渡しても自家用車を持っている家など一つもない。そんな時代に県北地方で育った人間としては、埼玉県や栃木県に接している県西部の市や町は、はるか遠方の土地だった。実際、五霞町、古河市は、これまで一度も足を踏み入れたことがない。とっくに車も手放してしまったし、もはや車など危なくて運転する気はないから、こうした機会でもないと訪ねることはなかったかもしれない。

 「県庁所在地の水戸とは80キロ離れている。しかし、都心からは40キロしかない。おかげで県外からの客が多く、『道の駅ごか』の売り上げは県下一」。染谷森雄五霞町長の元気よい歓迎のあいさつを受けた後、40年前からあるという「キューピー」の五霞工場を訪れた。卵を割る機械が高速で動いている部屋が、実に面白い。

 案内者が手に取ってからくりを説明してくれた一つ一つの卵割機は、なるほどと感心するほどよくできている。腹に裂け目を入れて両手の親指で割るように殻を真っ二つにした後、下の容器に移す。小さな容器の側面に大きな切れ込みが入っているため、白身だけがまず流れ出し、次に残った黄身だけが専用の回収といに流し込まれる。その一部屋だけ1分間に600個、1日に80万個の卵が割られ、黄身と白身に選り分けられるという。

 長年、疑問に思っていたことが、氷解した。米国で売られているマヨネーズと、日本のマヨネーズなぜこうも違うのかという…。実は米国に限らずマヨネーズはそもそも液状であって、クリーム状のものは日本独自だと知る。「欧米のマヨネーズが泡立っているのは、白身も使っているせい」。荒蒔康一郎氏(茨城県県人会連合会副会長)に、教えられる。東京大学農学部出身で元キリンホールディングス会長だから、食品に詳しいのは当たり前だ。

 ならば、なぜ日本だけが、白身は使わず黄身だけを原料にするようになったのか。「マヨネーズの製造を始めたころ、日本人の栄養状態はよくなかった。体格向上のためには黄身だけを原料にした方がよい、と考えたため。その方が味もよいし」。よくぞ聞いてくれた、という感じで、後藤信隆キューピー取締役・生産本部長が説明してくれた。当時は高価な調味料だったので、ポマードとして使われることもあった、ということだ。

 いまだに欧米企業は、日本流のマヨネーズは生産していないという。これは長年の習慣、あるいはメンツもあるだろうから、と理解できる。ところがユニークな日本流マヨネーズを生み出したキューピーが今、あえて白身も原料に使う製品も売り出している、と後藤本部長に聞いて、笑った。栄養過多が心配で、栄養分に劣る白身もわざわざ使ったマヨネーズをよしとする人たちが増えてきたため、というから、世の移り変わりは速い。

 次に見学したのは、日野自動車の新しい古河工場だった。この5月に海外の生産拠点向けに送り出す部品梱包(梱包)部門だけが、移ってきたという。2020年までに主要生産拠点である東京・日野工場の機能が全て移転してくる予定というから、古河市だけでなく、茨城県全体にとっても実にありがたいこと、と理解できる。見学と言っても入れたのは駐車場まで。それでも見学場所の選定、交渉に当たった茨城県東京事務所は、あらかじめバス会社に頼んで、別の事業所にしかなかった日野自動車製のバスを用意させたらしいから、気の使いようは相当なものだ。駐車場で会社側の簡単な口頭説明を受けた後、広い敷地の外側(おそらく公道だろう)をバスに乗って一回りするだけ。こうした視察内容も、自動車メーカーの社風を垣間見ることができた、と考えれば、有意義だったと思うべきなのだろう。

 重要無形文化財に指定されている結城紬の展示施設である結城市の「つむぎの館」に寄り、気が遠くなるような作業の積み重ねである紬の製造工程に驚嘆し、帰途に着く。東北高速道の佐野藤岡インターチェンジに向かう途中、はるかかなたを見ると、夕焼け空を背景に黒い富士山の姿。関東平野というのはだだっ広いものだ、とあらためて感心する。

 「明日、明後日と大洗、水戸でまた会合があるから、今日は懇談なしで別れよう」と言っていた高校の大先輩が、スカイツリーの照明が見え出したことから、急に元気良くなってきた。東京駅前に到着、解散後、駅に近い山手線のガード下でもう一人の先輩を加えた3人で一杯、となる。

 出てきたシシャモに、日本のマヨネーズがついていた。

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