レビュー

編集だよりー 2012年5月22日編集だより

2012.05.22

小岩井忠道

 記者という人種は似たような人ばかりよりは、いろいろな人がいた方がよい。マスメディアの世界に入って以来、そう思ってきた。ところが、この職種にも多くの人の見方と変わらない主張をすることに何の痛痒(つうよう)も感じなさそうな人が多い。そんな気持ちをずっと持ち続けている。

 この日が開業ということで、連日、新聞紙面にもテレビ画面にも東京スイカツリーが出てこない日はない。テレビは一部しか見ていないので何とも言えないが、大体は目を通している新聞は似たり寄ったりの記事ばかり、という印象だった。時には、皮肉の効いた記事があってもと思っていたら、21日毎日新聞夕刊にようやく一本の記事を見つけた。ローマ支局勤務を終えて4年ぶりに帰国したばかりという藤原章生記者による「大魔神か巡礼地か」という特集記事だ。

 「江戸情緒のある町並みの風景を乱さず地域と一緒に発展していけば…」というツリーを所有する企業の宣伝文句にかみついているくだりが面白い。

 「江戸情緒とあの塔がどうからむのか。ツリーがすでに死にかけた『江戸情緒』にとどめを刺すというのなら分かるが」

 五重塔に込められた伝統の知恵がツリーにも生かされていることなど、高さだけではないツリーそのものの魅力に触れている記事も、22日朝刊には1,2あった。しかし、設計の魅力だけでは多くの読者、視聴者の関心を引き続けるのは難しいのも分かる。タワーを造った東武鉄道に、建設周辺地域の活性化を応援するということを超える目的がなかった、ということだろうか。

 編集者は、ツリーのデザイン監修者、澄川喜一氏(インタビュー記事「ものづくり国のシンボル- 東京スカイツリーの魅力とは」参照)と親しくさせていただいており、氏とは開業の前日、21日夜にも都心でばったり顔を合わせたばかり。およそ元東京芸大学長を務めた人とは思えない気さくな人柄で、氏の息がかかったツリーには感心することはあっても、なんら批判めいた気持ちは持っていない。ツリー自体の面白さとは関係ない周辺の話ばかり並べ立てる報道に少々うんざりしているだけだ。

 通信社時代の大先輩である倉田保雄さん(故人)の著書「エッフェル塔ものがたり」(岩波新書、1983年)を思い出す。ツリーでは展望台やレストランしか話題にならない最上階にエッフェル塔は気象観測、天体観測、生物学的観測用の部屋が造られ、それぞれ一流の学者たちに運用を任せた、という。さらに塔の下には風洞を備えた風力研究所が造られ、ライト兄弟の航空機開発にも活用されたそうだ。

 最上部に据え付けられたアンテナでテレビとエフエム放送の電波が難視聴区域にも届きやすくなる。その程度の“技術的”話題しか見当たらないツリー自体に対しては、新聞、放送記者たちの筆も街ダネの範囲を超えて躍動しようもない、ということだろうか。

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