レビュー

編集だよりー 2012年2月16日編集だより

2012.02.16

小岩井忠道

 休暇というのはいくつになってもすぐに終わってしまう。店頭販売日より前に自宅に郵送されてくる月刊「文藝春秋」をかばんに入れて旅行に出発したのが、8日前。招待していただいた先輩の別荘で、連日マージャンばかりしていたら、あっという間に非日常的な日々は過ぎてしまった。

 招待された中で、ゴルフができないのは編集だけ。おかげで皆がゴルフに出かけているときは、別荘の書庫にある膨大な数の文庫本から適当な本を探し出して読める。「これは最後まで飽きずに楽しめる」。先輩に勧められて「シブミ」(トレベニアン著、早川文庫)を2日かかって読んだ。性的異常者あるいは精神があまりに正常人と異なる人物が犯人。続けざまにそんな本にぶつかり、以来、海外ミステリーは敬遠していた。犯人はだれで動機は何か? 結末を楽しみに読み進めた挙げ句、性的(精神)異常者が犯人、ではたまらない。

 今回も全く期待しないで読み始めたのだが、これがなかなか凝った内容だった。主人公の殺し屋は西洋人だが、日本人の将校や囲碁の棋士が、主人公に大きな影響を与えた重要な人物として登場する。タイトルの「シブミ」からして、「渋み」という日本語だ。

 作者は、この小説を書くために急きょ、勉強したのだろうか。囲碁や園芸などにもどうやら詳しい。洞穴探検という趣味を持つ主人公にしたのも、恐らく作者の強い思い入れがあったためだろう。洞穴探検の場が、何度も繰り返し出てくるのも、作者の好みの問題として許容できる。しかし、「黒い9月事件」とも呼ばれ9人のイスラエル選手がテロ事件で殺害されたミュンヘンオリンピック事件に対するイスラエルの報復計画に絡む小説の本筋がぼやけた嫌いがある。特に最終版のご都合主義にはしらけるところがあった。

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