レビュー

編集だよりー 2011年4月13日編集だより

2011.04.13

小岩井忠道

 福島第一原子力発電所の事故評価が、レベル7となった。チェルノブイリ原発事故と同じ評価だ。あそこまでひどくないのでは、と感じた人もいたのではないだろうか。しかし、原子炉、燃料プール内の燃料が依然、安定した状態になっていないことなどを考慮するとそうはいえないようだ。冷却のために注入している水は、燃料プールや圧力容器ないし圧力容器につながる配管などにできた裂け目あるいは隙間から流出し、放射性物質を含んだ水がどんどんタービン建屋内や建屋外の坑道などにたまり続けている可能性が高い。この水処理だけでもいたちごっこのような作業になりそうだ。燃料プールは格納容器の外にある。ともかくも格納容器内の圧力容器に収まっている燃料より、燃料プール内の燃料の方が放射性物質を大気中に放出する危険性は高いと思われる。

 18年前、編集週報という通信社の社内文書に書いた文章を思い出す。1993年10月、ロシアが解体した原潜にたまっていた放射性廃液を日本海に放出したことが大問題になった時だ。日本中が怒りの声で満ちあふれているような観に自分勝手さを感じて書いた。以下に再録してみる。

▽時代

 1980年に科学技術庁の役人や放射性安全の専門家に同行してグアムに出掛けたことがある。当時、日本政府は原子力発電所から出る低レベルの放射性廃棄物を太平洋に投棄する計画を進めていた。これにグアムや北マリアナ連邦など島しょ国が猛反発したのだ。「南太平洋地域首脳会議」なるものが開催され、日本政府はあわてて担当官を派遣、計画の説明と説得となった。

 投棄予定場所は房総半島の南東約900キロ。反対した島々の中で最も近いマリアナ諸島からも約900キロ離れているが、島しょ国首脳にとってみれば「なぜわれわれの海に…」である。「放射能汚染の危険がいかにないか」という科学的説明も「そんなに安全なら東京湾に捨てたらどうか」という素朴な反論の前には無力だった。

 海洋投棄を規制するロンドン条約というのがある。低レベルの放射性廃棄物についても一定の手続き、条件の下で投棄を認めている。科学技術庁もこの条約に沿って国内では漁業団体の説得など必要な手はすべて打っていた。

 「技術的に議論すべき話が外交問題になってしまうなんて…」。役人たちのぼやきを覚えている。

 ロシアに限らず原子力潜水艦が冷却水など低レベル放射性廃液を航行中に垂れ流していることは、放射性廃棄物専門家の間では「タブー」だが「常識」でもある。今回は解体した原潜にたまっていた放射性廃液なので、わざわざ外洋に持ち出し、まとめて捨てざるを得なかった、ということだろう。肝心なことは、軍用を特別扱いしていると、もはや放射性廃棄物の問題は論じられないということではないのか。

 武村官房長官は「ロンドン条約の特別決議に違反している」とロシアを批判したようだが、ちょっと待って、と言いたくなる。この決議というのは放射性廃棄物の海洋投棄を一時停止するというもので、83年と85年の二度にわたって採択された。ところが、日本政府代表は最初反対、次は棄権しているのである。棄権した決議に反すると言って大声で怒れるものだろうか。

 要するに日本は海洋投棄に反対という姿勢を明確にしたことは一度もないのである。太平洋の投棄は反対が強くできなかったが、海洋投棄を今後一切やらないとも、いまだに言っていない。

 「回る回るよ、時代は回る…」という歌があったけれど、日本政府のロシアに対する反応と、13年前に太平洋の島しょ国首脳が日本に怒った姿とどれほどの違いがあるのだろうか。

以上が、18年前の拙文だが、最近、フランスに行ってきたばかりだという人の話に少々驚いた。欧州の人たちも日本の福島第一原子力発電所事故対応について「国際条約違反だ、と怒っている」というのである。タービン建屋内外にたまり続ける高レベル放射性廃液を収納する場所を空けるため、低レベルの放射性廃液を海に放出したことを指している。原子力百科事典「atomica」で「ロンドン条約及びロンドン条約96年議定書の概要」 というページを読んでみた。条約は1996年に内容が強化されている。付属書1に投棄を検討できる物質が列挙されており、別項で「最低限度を上回る放射能を有する上記例外廃棄物等の投棄禁止」と書かれている。放射性物質が限度以下だから今回の海餌の放への放出は条約違反ではない、というのが日本政府の主張なのだろう。しかし、周辺国ばかりか欧州諸国は納得していない、ということのようだ。

 「回る回るよ、時代は回る…」。南太平洋の島しょ国の怒りを買った31年前、日本海でのロシアによる放射性廃液投棄に日本中が怒った18年前、そして今。久しぶりに中島みゆきの歌が口を衝(つ)いて出る。

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