レビュー

従来の予算査定と同じ結果に?

2010.11.12

中村 直樹 / 科学新聞

 10日行われた「元気な日本復活特別枠」公開ヒアリング(政策コンテスト)で、文部科学省と評価側のやりとりに首を傾げた。鈴木寛 氏・文部科学副大臣の説明に対して、平野達夫 氏・内閣府副大臣が「継続事業をいったん切って、再度、特別枠で要求するという手法は特別枠になじまない」と発言し、桜井充 氏・財務副大臣も「3倍枠目いっぱいまで要望するのはやりすぎ。文科省の要望は全省庁の3割にも達する。かなり厳しい判断をさせていただくことになる」と発言した。こうした発言は、概算要求組み換え基準という来年度予算要求・要望のルール自体を覆すものではないだろうか。

 7月27日に閣議決定した文書の要点は次のようだった。

 平成23 年度予算は、配分割合が固定化している予算配分を省庁を超えて大胆に組み替えることで、国民目線・国益に立脚した予算構造に改め、「新成長戦略」の目標とする経済成長や国民生活の質の向上を実現しなければならない。そのための「組み替え基準」としては義務的経費や年金・医療関係の自然増などを除いた政策的経費を1割まず削減し、その上で、その1割分、ないし削減が1割を超えた場合は超えた分の3倍の額を1割分に加えた金額の特別枠を要望することができる。対象となるのは、◇マニフェストの実現、◇デフレ脱却・経済成長に特に資する事業、◇雇用拡大に特に資する事業、◇人材育成、国民生活の安定・安全に資する事業—。

 つまり各省で固定化している予算配分割合を変えていくというのが閣議決定の趣旨だったはずだ。桜井副大臣の発言は、最終的な予算配分の出来上がりはほぼ決まっており、文部科学省がそれ以上に要望するのは「ルール違反だ」と言っているようにも聞こえる。だとすれば、これまで財務省が行ってきた予算査定とどこが違うのだろう。

 また、「継続事業を削って、再度、特別枠で要求するという手法は特別枠になじまない」という平野副大臣の発言も7月の閣議決定にある「効果の高い政策に重点配分する」との趣旨と齟齬(そご)を感じる。継続か新規かは問題ではなく、成長戦略につながる事業や、国民目線で重要だと思われる施策が優先されるということではなかったのか。もし、新規事業だけが特別枠になじむというのならば、これまで各省が行ってきた「継続事業では予算が取れないので内容を微修正して新たな事業として要求する」という手法と何ら変わらないことになる。

 11月4日に評価会議は評価の基本方針を決定した。原則の1つに「予算配分を大胆に組み替えるという『特別枠』設定の趣旨に合うものでなければならない」という項目が盛り込まれ、その中に「予算の組み替えにつながる新規性が十分にあるか(従来からの予算の単なる付け替えとなっていないか)」という評価の視点が入っている。

 こうした評価の原則は、8月末時点ではなかったものだ。1兆3,000億円の要望枠に5兆9,000億円あまりの要望が出てきて、さらにその中にはマニフェストで約束した農家戸別所得補償制度や米軍への思いやり予算などが盛り込まれてしまったため、予算を削減する苦肉の策として、こうした文言が盛り込まれたとしか思えない。これでは「後出しじゃんけん」のようなものではないだろうか。

 また、ヒアリングの前に行われたパブリックコメントでは、大学関係者や教育関係者だけでなく、子供を持つ親や学生などからも非常に多くの声が寄せられた。国民の声を予算編成に反映させるため行われたはずだが、国民の声を聞こうというのは見せかけだけで、結局は従来の予算査定と同じ結果になるのではないかと考えてしまう。

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