病院内感染というのは一般の人の想像以上に起こる危険が高い、と考えた方がよいらしい。24日、日本記者クラブで行われた舘田一博 氏・東邦大学医学部微生物・感染症学講座准教授と賀来満夫・東北大学大学院内科病態学講座感染制御・検査診断学分野教授の記者会見(2010年9月27日ハイライト「薬剤耐性菌対策は地域ぐるみで」参照)に出た記者たちの多くもそう感じたのではないだろうか。
院内感染が起きるたびに薬剤耐性菌に感染した患者をどうしてすぐに見つけられなかったのか、という批判が起きるが、次のような実態とデータがある。
英国におけるMRSA(抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を持つ黄色ブドウ球菌)への対応は、入院病棟ごとに高リスク、中間リスク、低リスクの3段階に分けて、スクリーニング(選別検査)と処理法を決めている。高リスクの病棟はICU(集中治療室)、CCU(冠状動脈疾患管理室)、熱傷整形外科、外傷、血液内科などで、MRSA感染あるいは定着している場合、スクリーニング、感染・定着(保菌)患者の隔離に加え、定着(保菌)患者の根絶と同室者の検査が必要とされている。
これが中間リスクとされている一般外科(耳鼻科含む)、泌尿器科、小児科、産婦人科、皮膚科病棟では、スクリーニング、感染・定着(保菌)患者の隔離まででよいとなり、高リスク、中間リスクに含まれない一般病棟となるとスクリーニングは不要で、個室隔離が不要とされる場合は標準予防策の実施で対応、となっている。
要するに、人的にも費用の面でもすべての病棟に対して同じ対策はとれないということだ。米国でも多剤耐性菌制御のためのCDC(疾病対策センター)ガイドラインが2006年にできており、2段階に分けた対応を勧めている。米国の健常人で黄色ブドウ球菌の保菌者は32.4%おり、MRSA(抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を持つ黄色ブドウ球菌)の保菌者も0.8%、フランスでは新規入院患者の7%が、MRSA保菌者というデータがあるという。
発症していないが保菌者が病院外に相当いるので、入院患者以外に見舞いの家族、さらには外来患者からも薬剤耐性菌が持ち込まれる危険も大きいということだ。
入院時にMRSA保菌者であることが分かった患者の入院前、退院後の追跡調査の結果からも「診療所、病院、高齢者施設から自宅までさまざまな場所に薬剤耐性菌が伝播している可能性がある」(賀来満夫教授)という。
世界的に見ると日本の院内感染事例はむしろ少ない。院内感染が起きた場合、当該病院の対応が厳しく問われるのは当然だが、むしろ大病院に限らずさまざまな施設でも薬剤耐性菌感染は起こりうるという前提で、今後の対策を考えた方がよいということのようだ。職場、家庭内での手洗いの励行といった個人的対応も含め。