レビュー

編集だよりー 2010年2月26日編集だより

2010.02.26

小岩井忠道

 日本の実情にも詳しい中国人物理学者、楊福家・英ノッティンガム大学長の話をレビュー欄で紹介した(「日中大学フェア&フォーラムが明らかにしたこと」)。

 おおっぴらには話されないが、個人的に聞くと常識になっているらしい日本の現実がさらりと指摘されている。「日本の大学も基礎教育への重視度がまちまちであり、薄まっている大学もある。学生の質が下がっていることをよく耳にするが、これは基礎教育の問題だと思う」と言われているのだ。大学生や大学院生の基礎学力が落ちていることは、隣の国でも知る人ぞ知るということだろう。先日、ある賀詞交換会で、高校の同級生に聞いてみた。シリコンウェハーを製造している大企業の社長を昨年退任したばかりだ。

 「日本の大学院生は採らない。採るなら中国人という日本企業があるらしいが、日本人の大学院生のレベルが低下しているというのは本当なの」

 あっさり肯定されたのに驚く。

 もう1人、こちらは大鉄道会社の役員から関連会社の社長になったばかりの後輩に同じことを聞いてみた。同じような答えだった。

 日本で基礎学力が落ちているという場合、実際には数学と理科を指すと見てよいようだ。国立大学の授業料が私立大学に比べても昔ほど安くなくなり、限られた大学を除き何が何でも国立大学を、というメリットがなくなった。1期校と2期校の区別がなくなり、国立大学を選択する幅、チャンスも減った。それなら数学が受験の必修科目でなく、理科もない私立文系1本で行こう。こうした受験生が増えてくるのは当然だ、と分かる。

 ところが国立もまただんだん入試科目数が減っている。さらに論文と面接で選抜する後期試験などが導入され、理工系ですら数学、物理、化学、生物といった基礎学力が危なっかしい学生が増えてきている、ということらしい。

 個性を重視しようというる教育制度の見直しが、もくろみ通りには行かず、むしろマイナスの面が目立つようになってきた、ということだろうか。

 中国の指導者たちが今、望むことの一つは国内から自然科学系のノーベル賞受賞者を出すことのようだ。楊氏もノーベル賞受賞者を輩出している日本の伝統に敬意を表している。しかし、個性重視の教育を、などというより「基礎教育の重視」を強調する楊氏の姿勢が興味深い。

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