レビュー

編集だよりー 2010年1月2日編集だより

2010.01.02

小岩井忠道

 毎年、この日に開く高校の同窓会に出た。「ありがとう会」という名称になっている。「(昭和)39(年卒)」だから「サンキュー」、もう一つひねって「ありがとう」というわけだ。

 「ここへ来るのにベルトをしてくるのを忘れた。ちょっとぼけてきたかも」。昨年5選を果たしたばかりで上機嫌の橋本昌・茨城県知事が、同級生たちを笑わせる。昨年8月の知事選では多選がマイナスには働かなかった。自民党県連から推薦を受けられず、県連が元官僚の新人を推したことが、かえってよかったということだろう。自民党は県医師会からも袖にされ、同時に行われた衆院選、知事選のいずれも大敗という結果になってしまった。

 司会者が気配り十分な人物だから「東京から来た人間の顔も立てよう」ということだろう。あいさつの機会を与えられたので、橋本知事の話を引き取り、まずは同じベルトの失敗談でも、といったんは考える。元旦、帰省するときベルトをしないで家を出てしまい、着いた先で買う。ところが翌2日、再び忘れて出てしまったため、会場へ来る途中でまたもう1本買うという失態を続けてしまったのだ。しかし、あまりにお粗末な話である。結局、披瀝するのはやめた。

 その代わり、地元の大型研究施設「J-PARC」(大強度陽子加速器)に引っかけたまじめな話をする。昨年7月、都心で開かれたJ-PARC完成式典に外国からも大勢の研究者が出席した。それら海外の研究者のほとんどが航空料金、宿泊費用を自分持ちで来日したことは、当欄でも紹介済みだ(2009年7月6日編集だより参照)。「J-PARC側が招待した外国人は3人だけで、それも正確に言うと2人半。3人のうちの1人はエコノミー航空券だったから」。永宮正治J-PARCセンター長に完成式典のパーティー会場で聞いた話も併せて紹介し、地元勢に一つ要望した。

 「最近、都道府県の好感度調査だかで茨城県が全国最下位だったとがっかりしていた人がいたけれど、知る人ぞ知る県であればいいのでは。関西や九州の人間に茨城をよく知ってもらおうなどと考えるより、それらを飛び越したアジアさらには欧州、米国など世界に知られる県を目指してほしい」

 橋本知事のJ-PARCに対する支援と思い入れは相当なものだから、知事には不要のエールだったろう。ただし、ほかの同級生たちはそもそもJ-PARCについてどの程度の知識、関心があるものか、少々不安だ。

 多くの同級生たちと歓談した後、会を途中で抜け出し、別のホテルで開かれている高校の運動部OB・OG会の方に回る。こちらでのあいさつはいつも似たようなものだ。「1年でも先輩なら偉い。こんな決まりがいつまでも通用する世界など今時、どんな集団にもあり得ない。この会にいられることはこの上ないぜいたくだと思っている」。二次会、三次会…。先輩、後輩、顧問の先生たちとその心地よいぜいたくにたっぷり浸って過ごして長い1日の終わり、つまらない誓いを立てた。

 物忘れに対する防御策として何年も前から出勤前に家を出るときに9つ数えることを慣わしとしている。財布から手帳、名刺入れ、携帯、ハンカチなど身につけた小物類を一つ一つ数え、全部で9つあれば「ハイ、忘れ物なし」。今年からそれにベルトを加え10に増やす、という誓いだ。

 時々忘れる定期もこの際、加えようかとふと考えたがすぐ振り払う。これ以上、数を増やすとその数自体を忘れてしまいそうだから。

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