毎日新聞の共同通信加盟が26日決定した。元通信社記者として歓迎したい。通信社記者自体がもっと広い範囲を取材対象とすべきだ、とずっと思ってきた。まして新聞社の記者なら通信社に任せてもよいようなところに貴重な人材をはり付けることなどせず、それぞれ独自の記事発掘に力を注ぐべきだ、とも。
「原子力シンポジウムの報告者の一人にニューヨーク・タイムズ紙の科学記者を呼びたいのだが」。昔、電力関係の機関に再就職していた大先輩に頼まれ、相談を受けたことがある。英会話などからきし駄目な人間にとってこれは大変な仕事だった(メールなど便利なものがない時代)。結局、失敗に終わる。こちらの言うことが先方に伝わらなかったから。その可能性は大いにあるが、断ってきた理由は「社が日本への出張を認めなかった」というものだった。「君には平日まるまる働いてもらう報酬を払っている。平日に何日か米国を離れるのはまかりならん。その間に原子力発電所で何か起きたらどうする」。そんなことを社に言われたらしい。
その時、思ったものだ。米国の新聞社あるいは通信社は、日本ほど多くの記者を抱えていないのではないか、と。
関係者が見ると不快な気になるかもしれないので、ある省としておく。この省を科学記者が自由に取材できないようでは、○○の世界の実情、問題点は報道しきれない、と通信社の部長時代に考えた。しかし、これを実現するのは容易ではない。昔から3つの部の記者が机を並べてその省の記者クラブに常駐し、通常、朝から晩まで省内の取材にかかりきりになっているのである。まず社内で先住3部の部長に頭を下げ、新規参入の同意を取り付け、次にその省の記者クラブ担当者(当然別の部の部員)に頭を下げて了解を得た。
これで一見落着とは行かない。記者クラブ総会というのがあるのだ。1社だけに4つもの机を配置する権利を与えてよいか、というのが大問題なのである。結局、他部記者の奮闘のおかげで、めでたくわが科学部記者の記者クラブ常駐加盟が認められた。机4つ配置を既得権にしないという条件付きで。
それもこれも中央官庁の取材をことのほか重視する日本のマスメディアの伝統によったものということだろう。
「官公庁や企業などの発表は今後、共同通信も活用し、これまで以上に毎日記者は、独自に深みのある取材をすることが可能になる」
朝比奈豊・毎日新聞社長は26日行われた共同通信社長、共同通信理事会長(西日本新聞会長)との共同記者会見で語った、と毎日新聞が報じている。朝日新聞の方が、突っ込んだ記事を掲載しており、いずれも懐事情が厳しい毎日新聞と共同通信が新たな活路を求めて思惑が一致した形、と解説している。
多分、最大の理由はその通りだろう。とはいえ、これを機に毎日新聞記者が発表記事は共同に任せ、省内外を取材で歩き回る機会が増えることの好影響を元通信社記者としても期待したい。毎日新聞の定期購読者の一人としても。
政権が変わった今でこそ大臣、副大臣、政務官をはじめ、各官庁の動きからは目を離せないだろう。しかし、いつまでも中央官庁からの情報に頼っていては、紙面がよくなるわけはない。特にだんだん新政権が安定して来るにつれ、昔同様、官庁からは一般国民が大きな関心を持つようなニュースがあまり出てこなくなる可能性は大いにある。
お上からの情報を大事にしがちなマスメディアの生き方を変えるきっかけに、ぜひとも今回の動きがなることを願いたいものだ。