レビュー

編集だよりー 2009年11月8日編集だより

2009.11.08

小岩井忠道

 宮沢明子のピアノリサイタルを聴いた後、会場の東京文化会館近くの居酒屋でいつものように知人と一杯となった。ほかの場所でも何カ所で見かけたことがあるチェーン店でこの店自体も最初ではなかったが、まずどぎまぎされる。

 テーブルに設置された端末から注文するシステムに変わっていたのだ。あの大きな絵付きメニューから選ぶ注文法と併用期間があってもよさそうだ、と机の下などをのぞき込んだりしたが、ない。最近の若者はものを食べることと、栄養剤を飲むのと区別がない。食事がかつてのような楽しみではなくなっている、などと前日に別の仲間の熟年同士で嘆き合ったばかりである。

 料理のメニューを眺めながら「さてどれから食べたものか」という行為ができなくなったことの違和感はちょっとしたものだった。2人でぶつくさ言いながらまずビールを注文したら、ジンジャエールとビールを混ぜたものが出てきた。インプットの間違いかと思ったら、あっさりと店員が交換してくれた。

 そのうち、ウイスキーの水割りにしたら最初は陶器のグラスで出てきたのに、2杯目からは普通のグラスである。「アレッ。器変わったね」とつぶやいたら、同じ若い女性の店員が「一杯目より2杯目の方が量が多いんです」。この正直さに感心した。1杯だけで帰ってしまう客は歓迎すべからざる客なので、量も少なくしているということなのだろう。

 何が自分に向いていないか、と考えるとむしろ向いている職業があるかどうかが心配になる。そんな人間だが、飲食店の経営などというのは逆立ちしてもできそうもない。

 端末を入れることによる省力化、1杯目の水割りの量を少なくすることによる売り上げへの影響は? とても考える気にもなれない。などと思いめぐらしているうち、二日酔いにもかかわらずまた結構飲んでしまった。

ページトップへ