体育の日、「子どもの体力 向上の兆し」という日経新聞朝刊の記事に「結構なことだ」と一人合点した後で、孫の野球の試合を見に出かけた。同じ記事が東京新聞朝刊にも出ていたから共同通信の配信記事のようだ。
この日は、娘一家の住む地域の秋の大会最終日で、小学高学年(5、6年生)と小学低学年(3、4年生)リーグがそれぞれ1位、2位によるプレーオフを行っていた。
4年生の孫が所属するのは低学年チームである。3年生の方が多いこともあり、春の大会までは連戦連勝とは行かなかったが、ちょっと見ない間の変化に驚く。三振か四死球がやたら多く、盗塁はほとんどセーフ。春の大会ではこんな試合がほとんどという印象だった。ところが、この年頃の子どもの成長というのは恐ろしい。この日は外野に飛ぶ打球が珍しくなく、双方、外野手の間を抜くあるいは頭を越すヒットも何本か出た。ところが外野に飛んだこれらのヒットがいずれも二塁打止まりなのだ。ボールを追いかけるのにそれほどもたつかず、中継プレーもそれなりにできるようになっている。先方の捕手は強肩で、2度も2塁盗塁を阻止した。通信社時代によくやった社内の野球試合でも盗塁死など見た記憶はないから、立派なものだ。
少年野球のコーチたちの苦労にはいつも頭が下がるが、見返りもまた大きいに違いない。遅ればせながら気づいた。たまにバットにボールが当たっても力ない打球が内野にコロコロ。まれに外野に飛ぶとランニングホームランを覚悟した方がいい。こんな子どもたちの多くが1、2年もたたないうちにこれだけ成長するのだから、その楽しみ、充実感は手取り足取り教え込んだ人にしか分からないだろう、と。
リーグ戦の時は孫たちが勝ったそうだが、その時、先方は主力選手がそろっていなかったらしい。なかなか見ごたえある打撃戦も、3対7とほぼ力通りの結果に終わる。
夕方の閉会式を見物した後、娘宅で夕食をごちそうになりながら、勝手な感想を述べる。「盗塁失敗などがなければ、あと2点くらい入ったね」。最終回も先頭の9番打者がヒットで出塁した後、2塁盗塁に失敗、その直後に孫の2塁打が出たのだ。そこで、チームの役員をしている父親の言葉に驚く。盗塁は、コーチがサインを出している、という。そこまできちんとやっている、というのは予想外だった。
1日前、11日の産経新聞朝刊一面に佐伯啓思・京都大学教授の長文コラムが載っていた。「スポーツとは、もともと『ディス・ポルト』という言葉を語源とし、これは『常軌をはずれたふるまい』というような意味だそうである」と書いてある。
2016年の東京誘致に失敗したオリンピックに対し「東京都民の低調な関心も、『ディス・ポルト』なものへの警戒心のゆえ、としておこう」。それがコラムの落ちであったが、編集者は子どもたちの野球を見て、全く別の感慨を持った。少年野球に関しては、兄弟や近所の遊び仲間との触れあいで鍛えられる機会が激減してしまった今の子どもたちにとって貴重な体験な場となっているのではではないか、と。
盗塁失敗した子どもたちもそれほど悔しがらないかもしれないな。自分の判断ではなくコーチの指示だから、とも思いつつ。