レビュー

編集だよりー 2009年10月4日編集だより

2009.10.04

小岩井忠道

 よほど力量の劣るオーケストラを聴いたら、すぐそれと分かるだろうか。編集者に関してはまず、分からないと思う。まして、一定レベル以上のオーケストラとなったら優劣など…。

 そんなC級音楽ファンだが毎年、東京で開催されるアジアオーケストラウイークはちょっと違う。いつもいい演奏だと思う。演奏者たちの気合いが十分入っているのが、よく分かるからだ。

 ということで、今年も3日、4日と続けて東京オペラシティコンサートホールに出かけた。3日は、中国の武漢管弦楽団で、4日は韓国のインチョン・フィルハーモニック管弦楽団である。3日の演目にはラフマニノフのピアノ協奏曲2番が入っていた。この曲を最初に知ったのは大学生の時、「ラプソディ」という米国映画の中だった。別の音楽学校生のもとに走ろうとした主人公、エリザベス・テーラーが、演奏会でピアノを弾く恋人の姿に打たれ、結局、元の鞘(さや)に、という作品だ。このときに演奏されていたのがこの曲だった、という次第。

 この夜のピアノ奏者はCHEN Jieという女性だが、まだ23、4歳というのに米国を中心に相当な評価を得ているらしい。指がまるで二匹のカニのように鍵盤上を縦横に動き回る様子に驚嘆する。

 何度聴いても満足、というこの曲を存分に楽しんだ後の曲は、シベリウスの交響曲1番だった。予想していたとおりこちらはそうはいかない。前に聴いた覚えのある旋律も全くなく、この後、再度、聴いたとしても覚えのある個所は多分ないだろう。そんなC級ファン泣かせの曲だった。しかし、この夜は、アジアオーケストラウイークである。武漢管弦楽団も聴衆の拍手にこたえアンコール曲を4、5曲演奏するサービスぶりで、いつものように最後は気分よく会場を後にすることになった。

 オーケストラの曲は、協奏曲は別として、文字通り音が渾然一体、どの音がどの楽器のものかよく分からずに聞こえる。そんな時期が長らく続いた。木管楽器の音がそれぞれようやくなんとか聞き分けられるようになったのは最近の話だ。いや、ファゴットはまだ危なっかしい。

 考えてみれば中学生になって、ようやくブラスバンド部の音楽に触れたけれど、それまで小学校の音楽の授業などは寂しいものだった。中学のブラスバンド部の演奏も、景気のいい行進曲ばかりだったし、楽器にはオーボエもファゴットもホルンもなかった。クラリネットだけは多かったが、安いベークライト製だったろうから“本物”とは似て非なる音しか出てなかったはずだ。これでは、楽器の音の善し悪しがわかるはずもないということだろう。音楽もまた、スポーツと同じで幼少時から体験しないといかんともいがたいところがあるのでは、とつくづく思う。

 オーケストラの演奏の善し悪しが分かる人というのは、どこにどう感心するのだろうか。分かりやすく解説した初心者向けの本はないのだろうか。科学コミュニケーションの重要性が叫ばれているのだから、音楽の分野もだれか考えてほしいものだ。新聞の音楽評などを読んでなるほど、と思ったことがないような人間のために。

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