レビュー

編集だよりー 2009年7月27日編集だより

2009.07.27

小岩井忠道

 自分より年配の方々に比べると読める漢字も少ないし(書ける漢字となるとさらに)、語彙(ごい)も貧弱だ、とずっと思っている。「流れに棹(さお)さす」や「役不足」など相当の年齢になるまで逆の意味とばかり思っていた。だから、人のことを「字を知らない」「言葉を知らない」などと批判する気にはなれない。

 とはいうものの、今回は少々気になった。夜10時過ぎて家の固定電話に出ることはまずない。寝てしまっているか、まだ帰宅していないかのどちらかだからだ。ところが「近々、一杯飲もう」という話でメールのやりとりをしているうちに時間がたち、電話の呼び出し音に応じた。10時を過ぎている。

 「近くにマンションが…」。このところしばらく受けることがなかった勧誘の電話だった。こういう電話に対して即座にガチャンと切るようなことが昔からできない。黒澤明監督の名作「椿三十郎」も一カ所だけいまだにある場面が気になってしようがないたちだ。若侍たちのつまらぬ不信感で窮地に陥った三十郎(三船敏郎)が、その場に居合わせた敵側の人間数十人を一人残らずたたき切るシーンである。侍が切られるのを気にしていたら時代劇など見られないだろう。しかし、悲鳴を上げながら逃げようとする門番まで殺してしまう場面で思ったものだ。この人たちにも妻子や親がいるだろうに、と。

 そんな性格だからマンション購入の勧誘電話を受けても、邪険な態度はとれない。電話をしてきた若者だって親もいるだろうし、ひょっとして妻子がいるかも。仕事とはいえ、あまり傷つかせないようにしないと、と考えてしまうわけだ。もっともその気が全くないのに電話にいつまでも対応しているのは相手にとっても時間の無駄でしかない。いつも話をある程度聞いた上で切ることにしている。

 「マンション購入に全く関心はないし、それに私、寝入り端(ばな)なんです」。そういったときの先方の反応にびっくりした。「なんです、それ!」。少々詰問調ともとれる言葉が返ってきた。

 「寝入り端も、ある年齢層では死語になりつつあるのか」。寝床に入ってからもしばらく考えた。

 孫たちも上の方はもう小学高学年である。そろそろ子どもたちに新聞を読む習慣を付けさせるよう、今度、娘に会ったら話してみよう。てなことを思いながら眠りについた。

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