レビュー

編集だよりー 2009年6月7日編集だより

2009.06.07

小岩井忠道

 炎天下、都内の区立小学校に通う孫息子の運動会を見てきた。地方出身の人間としては、違いが面白い。編集者の学んだ小学校も中学校も一周200メートルのトラックが作れる広い校庭があった。一度に7、8人が走る徒競走や、特にリレーは抜きつ抜かれつありで見ごたえがあったように思う。

 違いというのは、校庭が狭いということだ。トラックの一周は60メートルくらいしかないので、追い抜こうとしてもすぐカーブになってしまいまず後ろの走者は追い抜けない。いい点と言えば一生懸命に走ったり演じたりする児童・生徒たちとの距離が近いので、親近感をより感じることができる、ということだろうか。

 これも校庭が狭いからだろう。3方を取り囲む形で建っている校舎も開放されており、教室の窓から見物もできるし、昼休みには教室で弁当を広げることもできる。昨年に続き、孫息子の教室で弁当を食べさせてもらった。

 昨年との大きな違いに気づく。展示物がある教室の壁に新聞紙がはりつけられ、内容が読めないようになっていたのが、ことしはそれがない。生徒たちの名前が並ぶ給食当番表などもそのまま張ってあり、「フムフム1クラスの生徒は28人か」などということも分かる。生徒の実名と感想文などが書かれた展示もそのまま壁に張られていた。

 1年でなぜこのような変化があったのだろうか。

 昨年7月、日本学術会議・法学委員会「IT社会と法」分科会が「電子社会における匿名性と可視性・追跡可能性−その対立とバランス−」という報告書をまとめたことがある(2008年7月30日レビュー「匿名性と可視・追跡可能性」参照)。「匿名性を高める(プライバシーの尊重)」ことと「可視性(自分の情報がどのように出回っているかを知る)」、特に「追跡可能性(犯罪などの可能性があった場合に当事者を突き止める)」との微妙なバランスの上に今のIT社会が立っている現状と、それに対する対応策などが盛り込まれている。

 「匿名性・可視性・追跡可能性の、量的・質的な最適バランスを図る必要がある」。報告書の提言を前述のレビュー記事で紹介するにあたり、昨今の個人情報秘匿の動きを行き過ぎではないかという意味の感想を枕にふった。これが怒りを呼んだのだろうか。すぐに「こんな意味不明なブログはもうやめてほしい」という匿名のメールが寄せられた。後はブログに書いてあるというので、指定のサイトを開けて驚いた。強烈な批判の文字が並んでいる。こちらの言葉をとらえて「奇妙で危ういのは筆者の頭だろう」みたいなことまで書かれていた。

 「何が意味不明か書いてくれればコメントとして載せる」。メールを匿名のアドレス宛に送ったら、今度は「これ以上説明しなければ分からないのか」という意味のことをブログに書かれ、そこでさじを投げた経緯がある。

 孫息子の教室の変化に何か背景があったのか、あるいは担任の先生の個人的な考え方の違いに過ぎなかったのか、は分からない。1年前のかみ合わぬメールのやりとりを思い出し、受信記録から探し出したブログサイトのURLにアクセスしてみた。現れたのは、次の文字だけだった。

 「お探しのページが見つかりませんでした。名前が変更されたか、移動したか、削除された可能性があります」

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