レビュー

市民団体の役割 米ハリケーン災害の教訓

2009.04.20

 シンポジウム 「ニューオーリンズ・ハリケーン災害に学ぶ」が、18日、都内で開かれた。

 日本自治体危機管理学会と明治大学危機管理研究センターが、米国フォード財団助成国際交流プログラム「Learning from Disaster:Miyakejima & New Orleans」の一環として開催した。2007年8月のハリケーン「カトリーナ」で大被害を受けたニューオーリンズ市の復興開発局長から、地元および米国内外で活動している民間の支援団体責任者など実際に復興活動にかかわってきた15人の当事者が参加、それぞれの経験に基づく報告を行うとともに、会場からの質問にも丁寧に答えていた。三宅島の噴火で被災した島民や、復興にかかわった人たちとの交流が基盤にあるために、このような大規模なシンポジウムが実現したことが伺える。

 カトリーナによる災害では、1,400人以上の犠牲者が出て、市を中心に避難者は100万人に上った。まだ戻れない人がいるため、48万5千人いた市の人口は7割程度までしか回復していない。復興事業のポイントは、いかに多くの市民を市に呼び戻すかだったことが、シンポジウムでの報告、コメントからよく分かる。

 災害が起きる前から市は深刻な問題を抱えていたようだ。公共住宅は、1940年代から60年代に造られた建物が多く、老朽化が進み、貧困層の住居となっていた。薬物を初めとする犯罪の温床にもなっているという状態で、カトリーナに襲われたとき既に700戸あるうち居住者がいるのは144戸しかない公共住宅区もあった、という。

 当時、既に6,000人のホームレスの人々がおり、カトリーナによってその数は倍の12,000人に増えた。

 「災害で一番つらい思いをしているのは高齢者、子ども、障害者。これら社会的弱者に復興対策の優先順位を置かなければならない。それがカトリーナの第一の教訓」。市を中心にホームレス対策に取り組む非営利公共慈善団体「UNITY」のマーサ・ゲーゲル専務理事は言う。強制避難の後、戻って来られないこれら弱い立場の人々は、家族や隣人の支援も失うことでさらに厳しい境遇にさらされる。これらの人々を元の地域に戻すために、手ごろな賃貸料の住居と医療、社会サービスの再開、再構築が最優先で行われなければならない。また、財産を失わなかった人でも、広い地域が破壊されると絶望的になり、土地を離れてしまう恐れがある。こういう人たちも含め、全員に自分たちでコミュニティを復興させるのだ、という前向きなボランティア参加意識を持たせることが重要、とゲーゲル専務理事は強調していた。

 ホームレスをなくすためには、コミュニティがホームレスをなくそうと決心して協力することが不可欠、とする主張には、ニューヨークを拠点にホームレス解消活動を国際的に展開している市民団体「コモン・グラウンド」の創始者兼理事長、ロザンヌ・ハガーティさんも同調していた。「コモン・グラウンド」はカトリーナ災害の前からUNITYなどニューオーリンズのホームレス解消活動を支援している。これまで孤児院を住宅に改造するなど500戸の住居を提供した。ハガーティさんによると、ニューオーリンズへの支援は「災害を機会にホームレスの人々を救う活動」ということだ。

 米国フォード財団助成国際交流プログラム「Learning from Disaster:Miyakejima & New Orleans」のプログラムディレクターで、シンポジウムの司会も務めた青山やすし 氏・明治大学大学院教授(元東京都副知事、三宅島噴火時の現地災害対策本部長)によると、被災者支援は、自治体が先頭に立って避難所や仮設住宅を設置する日本に対し、米国では財政力もある市民団体が被災者支援の先頭に立つ、という違いがあるという。カトリーナ災害の時は、連邦緊急事態管理局(FEMA)の対応が後手に回り、その背景にはブッシュ政権の災害対策軽視があるとも指摘された。

 公衆衛生学者でニューオーリンズを初め各地の公衆衛生や地域復興計画にもかかわってきたリンダ・ウズディン博士は、「カトリーナ災害における公的支援とボランティア活動の比率は」という会場からの質問に次のように答えていた。

 「それに答えられる人はほとんどいないと思う。ただ民間の果たす役割は非常に大きい。政府の場合、対応に時間がかかり諸々の手続きを経ないとできないことがある。民間の人々が集まって支援をしてくれたこと、世界中から支援資金が寄付されたことで、見捨てられた人々の気持ちがいやされた。これが重要なことだ」

 これまで日本の災害で地元自治体を初めとする公的機関が機能マヒに陥った、あるいは完全に後手に回ったというケースはなかったかもしれない。しかし、地震や水害による大災害が首都圏を直撃したような場合はどうだろうか。公的機関だけでなくボランティア活動に期待しなければならないことは多いのではないだろうか。

 カトリーナ災害からの復興の活動実態と教訓に、もっと多くの日本人も関心を持った方がよいと思われる。

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