レビュー

編集だよりー 2009年3月21日編集だより

2009.03.21

小岩井忠道

 21日朝のエフエム東京番組「陰山英男のヒューマン・ラボ」で、陰山氏が、割合、分数をきちんと理解させることの重要性と、その教え方について語っていた。小学生のときに文章題でつまずいても、後に方程式を習えば簡単に解けるようになるからたいしたことではない。むしろ割合、分数でつまずく方が問題ということだった。

 氏によると、子どもたちは納得しないとやらない。2割や90%という単位に納得がいかない子どもたちが意外に多い、という。2割は0.2、90%は0.9のことだと教えても、それだけではまだ理解されにくいから、それに「倍」という単位をつけて教えてやる。「2割は0.2倍」「90%は0.9倍」のことで「1(倍)」より小さい数字を表す単位が割や%だ、と教えると納得する子どもたちが多い、という主張に、なるほどと感心する。

 陰山氏は、「読み・書き・計算」の反復や、朝食や就寝など生活習慣を重視する独特の教育法で著名な方だ。確かに鶴亀算などは仮に小学生のときにできなかったところで、方程式を習えば、頭の中で何度も掛け算や足し算をやらずに解ける。連立方程式を知ればもっと簡単に解けてしまう。しかし、さらにそれよりも興味深かったのは、割合がすぐには理解しにくい子どもが多い、という指摘である。わが意を得たり、という思いだった。先月の当欄(2月5日付編集だより)に関連がありそうなことを書いたばかりだからだ。その個所だけ再録させていただく。

 「『たばこを吸うとがんになるなんて信じない。たばこを吸っていて長生きしている人いくらでもいるではないか』。昔、身近にいた人間に喫煙の危険性を説いて反撃され、すぐさじを投げたことがある。小学生や中学生の時代に、分数や割合といった考え方を身につけずに大人になってしまった人と、安全論議をするのは実に難しい」

 世の中にはこんな人もいるが、という書き方だが、実は違う。分数や割合というものをよく理解できない人が意外に多いのではないか、と思っているというのが本心だ。例えば、システムにトラブルがあったときなど、このときとばかり「何でそんなミスが起きたのか」と鬼の首を取ったように技術部門の人間を追及する人間が多いような気がする。

 100%完全なシステムなどあり得ない。それにあらゆる技術はトラブルの積み重ねで向上した、便利な今の生活もまた、ということをどうして分からないのか。怒るより、むしろそれを教訓としてよりよいシステムにする手立てを一緒に考えよう、という態度をとるのがものごとをわきまえた人間の態度ではないのか。いつも思ったものだ。

 小学校時代に陰山先生のような教師にめぐり会える人はむしろ少数だろう。そうでなかった人はどうなるか、と考えると、編集者のような見方も見当違い、偏見とも言えないのではないだろうか。「割合という考え方に十分、なじまないまま、大人になってしまった人が意外に多いのでは」と見る…。10%と50%の違い、あるいは2分の1と3分の1の違いまでは、何とか実感として分かるが、10%(0.1)と0.01%(0.0001)の違いとなると、考えるのが面倒になり「要するに0ではないんだな」と納得してしまうような。

 メリット、デメリットをできる限り考え、許容できるリスクかそうでないかを判断する。トラブルや事故が起こる割合が「ゼロでないなら危険だ」などと決めつけないで…。こんな人たちが多数派になれば、世の中もっとすみややすくなると思うのだが。

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