知る人ぞ知る大学発ベンチャー起業支援サイト「Digital New Deal」(DND)を運営する出口俊一氏の「DNDメルマガ」300号達成を祝う会(11日)に出席した。
出口氏は、元産経新聞記者で今の時代にピッタリの能力、心意気、実績を持つ方だ。かつて産経新聞電子メディア部門の立ち上げ時にも中心的な役割を果たした。経産省が後押しするウェブサイトの責任者としてスカウトされ、この分野では最も充実したサイトに育て上げた。現在は、経産省からの支援も受けない自立したサイトとして、さらに影響力を増している。
当サイエンスポータルが2年半前にスタートした時には、サイトの基本コンセプトから具体的なコンテンツのありようまでアドバイスを受けた外部識者からなる委員会のメンバーだった。以来、編集者にとっては心強い助言者でかつ温かい支援者、さらに楽しい飲み友達として、親しくお付き合いいただいている。氏のウェブサイト「デジタルニューディール」(DND)の目玉コンテンツが、氏が毎週、執筆、配信し、サイトにも掲載しているDNDメルマガだ。これがとうとう300号に達したというので、氏とともにかつてサイトの運営にあたった人や親しい人々が集まってお祝いの会となった次第である。
とはいうもののお祝いを受けるだけの立場に納まっている人ではない。主賓格の古川勇二・東京農工大学大学院教授があいさつで触れていたように、最初から最後まで自分で司会役を兼ねるサービスぶりであった。
DNDメルマガの魅力は、新聞記者時代を含めて蓄積された多方面にわたる豊富な知識と、関心の広さに加え、実際に大学発ベンチャー起業支援を実践する中で得た経験に裏付けられたものだからでは、という気がする。若いかつての同僚氏によると、メルマガをサイトのコンテンツにすると提案したときに、「何でそんなものを書かなくてはいかんのか」と相当抵抗したというから笑う。連載を続ける内にどんどん気合いが入ってきたということだろう。今や、書くことが多すぎて困るという気持ちが伝わってくるような重量級の記事ばかりだ。「産経新聞記者時代に書いた量以上の記事を既にメルマガで書いた」と笑っていたが、恐らくその通りではないだろうか。
政治、経済に対する見方も鋭く、深いが、これらの評は手に余るので控えるとして、編集者がいつも感心するのは、映画評など文化的な記事を含め、社会部記者的なものの見方である。批判一点張りでなく、むしろ褒めるところは大いに褒めるところも安心、信頼して読める理由だろう。「それでも私は、新聞を支持します。こんなに面白く、安価で、役に立つ、確かな媒体は、ほかに存在しないではないか」。12月3日付の「新聞の危機を救う、その妙手はあるか!」というコラムで書いている。
翌10日付の「経済破綻の米国の事情」では、次のように現実を抑えることも忘れない。産経新聞の電子メディア部門時代の経験を詳しく紹介した上での指摘だから、説得力に富む。
「(新聞は)新聞以外にどんなメディアが登場しても、それを最後に取り仕切るのが新聞という思い上がりがわざわいし、ネット時代にふさわしいビジネスモデルの構築を最初から捨ててしまったのではないか、と思います。ネットビジネスは、それはコンテンツが基本だが、それよりも、ある種の仕組みを作る、というところの方がよりビジネスとして重要だったのですね」
出口氏のような人が記者として後にどんどん続いてくれれば新聞はつぶれない。あらためて感じる。