レビュー

編集だよりー 2008年11月30日編集だより

2008.11.30

小岩井忠道

 江戸博物館の江戸ゾーンよりこちらの方が、繰り返し見ても飽きないのでは。久しぶりに茨城県つくばみらい市の「ワープステーション江戸」を訪ねて、見直した。前に来た時は、いくつか首をひねるようなところがあったのを思い出す。入場料が安いとは思えなかったのは、中身とのかねあいだからそれだけで文句は言えない。しかし、高い駐車場料金を取られたのには驚いた。2回目以降は割引するということだったが、これはお客本位の発想とは言えない。駐車料だけでも割引すればまた来てくれるのでは、という気持ちは分からないでもないが、見せる側の勝手な皮算用だろう。そもそも車で来る以外、交通の便などない場所である。「こりゃあ、危ないな」と思ったら、オープン2年後に経営破綻というニュースを聞いた。

 そこになぜ、再訪したかといえば、茨城県人会連合会が企画した筑波研修会に参加したためだ。金曜日(28日)だったが、会の“若手メンバー”としては、休暇を取っても参加せざるを得ない。それに県人会連合会の事務局を担う茨城県東京事務所の所長は、高校の運動部の後輩でもある。万一、参加者が数えるほどだったら、所長の将来にも影響するかもしれないし。

 つくばエクスプレスでみらい平駅に集合、駅周辺の開発状況をバスの中から見学して、最初の訪問場所「ワープステーション江戸」に着くと出迎えた列の中に、高校の同級生、坂入健氏(茨城県開発公社理事長)がいる。オープン間もなく破綻した後、施設の経営は、茨城県開発公社に移っていたのだ。最初の運営会社が、そもそも茨城県と地元、伊奈町(現・つくばみらい市)が出資した会社だったらしい。

 入場料が、オープン当時よりだいぶ安くなっているのに気付く(研修会参加費に含まれていたらしく、実際には取られなかったが)。駐車料金も無料になっていた。

 オープン当初は、江戸時代と現代を「ワープ」するというコンセプトによるものか、確か「宇宙ゾーン」のような中途半端な施設もあった。しかし、いまは江戸を再現という性格に特化している。映画やテレビドラマの撮影場所として利用されているということだった。江戸城大手門や武家屋敷、大店街、廻船問屋、長屋など広い敷地の特徴を生かした建物群は、確かに映画やテレビドラマの格好なロケ地になると理解できる。余計なものをはぎ取り、運営費を切り詰めた結果、かえって面白くなったではないか、という印象だ。一つの井戸、共同便所を囲んで建つ長屋などを見たら、子どもたちあるいは若者たちも少しはまじめに考えるのではないだろうか。ほんのちょっと昔の人々がいかにつつましい暮らしをしていたか、ということを。

 施設内を見学した後、入り口に隣接する小さな歴史館ものぞいてみた。何と、前日当サイトのニュース欄(2008年11月27日「植物の生長左右するホルモン受容体の構造解明」)で取り上げた植物ホルモン「リベレリン」の発見者が展示パネルに載っている。植物の成長に大きな役割を果たすホルモン「リベレリン」の受容体の立体構造を解明したというのがニュースで、リベレリン自体は、80年に以上も前に見つかっているよく知られた植物ホルモンである。名古屋大学のプレスリリースには、発見者の名前も出ていたのだが、初めて目にする名前だったこともあり、記事に入れないでしまった。

 この人物、黒澤英一氏が地元(旧伊奈町)の出身というのだ。1926年に氏によってイネの馬鹿苗病から発見された、と名古屋大学の発表文には書いてあったが、歴史館の展示では「種なしブドウをつくるジベレリンの発見者」と紹介されていた。

 なるほどこの表記は分かりやすいし、一般の人の興味も引きやすい。おそらく種なしブドウと黒澤英一氏は、直接関係ないだろうが。

関連記事

ページトップへ