レビュー

編集だよりー 2008年11月1日編集だより

2008.11.01

小岩井忠道

 茨城県で1日から9日まで開かれている第23回国民文化祭・いばらき2008の開会式・オープニングフェスティバルを見るため、主会場である水戸市の茨城県民文化センターに出かけた。

 無論、茨城一色のプログラムだった。まず地元のオーケストラが、だれでも知っている曲をメドレーで演奏した。「シャボン玉」など野口雨情(北茨城市出身)作詞の童謡が数曲続いた後に、吉田正(日立市出身)作曲の「いつでも夢を」、最後に坂本九(母親の実家が笠間市)が歌った「見上げてごらん夜の星を」という具合だ。

 開会式では、ソプラノ歌手、中丸三千繪(筑西市出身)の歌う「君が代」の迫力に度肝を抜かれた。右前方にマイクらしいものがあったが、他の会場に声を届けるためのものだろう。マイクを通さない声、それも高音にかなうものなし! オペラの三流ファンとしては、あらためて独り納得、という思いだった。

 総合プロデューサーでもある池辺晋一郎(水戸市出身)の作曲・指揮による「海よ、母よ」(作詞・新川和江=結城市出身)には、県内の中高校性が合唱を受け持ち、正面に映し出される茨城県の自然と曲・詞がかみ合って、大いに聴かせた。その後を引き受けた寺内タケシ(土浦市出身)のエレキバンド中心の演奏は、太鼓、ダンスなどが加わってなんとも賑やかな舞台だった。

 最後は大勢の子どもたちが参加しやすい形をとったのだろう。メーン会場の客席、他の会場の子どもたちがリーダーの台詞に続いて、大声で唱和する「明日へのメッセージ」というプログラムだった。フーム「呼びかけ」というやつだな。つい、苦笑してしまった。小学生のころ、学芸会で劇をやらされるほど照れくさくて往生したものはない(もっとも数年で声が掛からなくなったから心配する必要もなくなった)。しかし、劇以上に気が入らなかったのが、この「呼びかけ」というものだった。あまりに芸がなさ過ぎる。子ども心にもそう感じられたからである。

 しかし、あえてこんなパフォーマンスを最後に据えたのも総合プロデューサーの計算のうちに入っているはずだ。祭典は上手、プロの芸を一方的に見せるものではない。できるだけ普通の人間も巻き込んだより参加型のものでなければならない、ということなのだろう。歌や踊りがうまくなく、楽器の演奏などもできない子どもでも、「呼びかけ」なら、ちょっと練習すればできるだろうから。

 故郷というものにも、知らないことが山ほどある。開会式・オープニングフェスティバルをのぞいたおかげで、あらためて痛感した。あいさつした県議会議長の地元自慢の中に、万葉集で一番、詠まれている山は筑波山、というのがあった。20数首(メモをとらなかったため正確な数字忘れる)あり、大和三山の香具山より多い。富士山などはわずか8首しかないのだそうだ。大和盆地から遠く離れた場所にあるのに、権力、文化の中心に近いところの山より多く歌に登場するというのは、どうしてか。見栄えがいいだけが理由とは考えにくい。

 個人的な発見もあった。名横綱として高齢の方々にはよく知られる常陸山(1874−1922年)は、編集者の高校(当時は旧制中学)の先輩、と会場ロビーの展示で初めて知る。旧制中学3年の時に水戸で父親が経営していた水産会社が倒産したため、中退して相撲取りになったという。他人にはさらにどうでもよいことだが、常陸山の家の姓が、編集者の母方の実家と同じと知って驚く。これまで家族や親類から常陸山の本名のことを聞いた覚えがないから、縁続きということはまずなさそうだが。

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