レビュー

編集だよりー 2008年1月24日編集だより

2008.01.24

小岩井忠道

 当サイトの「今週の予定」欄で2日前に紹介した人工知能学会・知識流通ネットワーク研究会の第1回研究会を傍聴した。NTT武蔵野研究開発センタ(武蔵野市)を訪れるのは初めてだ。科学技術を担当していたといいながら、通信社記者時代に電気通信関係の取材はほとんどやっていなかったという証拠である。

 「知識流通ネットワークの展望について」というテーマはともかく、知識流通ネットワーク研究会の設立趣旨となると、お手上げに近い。「デジタル化されたコミュニケーションを通じ、人間の知的創造や意思決定行為を支援する知識情報処理技術を対象とし、実社会における知識コミュニケーションの課題や応用についての研究を扱う。特に、知識の創造から流通コミュニケーションプロセスに関する課題およびそれらのモデルについての研究課題を抽出し、解決することを目的とする」

 ということで、各講演者の話も何がポイントかすら理解できたかどうかあやしい。最後に講演者4人のパネルディスカッションがあり、まず会場からの質問が求められた。これも何を言っているのかさっぱりだったのだが、山本修一郎・NTTデータ・システム科学研究所長(研究会主査)の答えは、印象に残った。

 「コンテンツが次々にデジタル化され、今後、さらにデジタル化されたコンテンツが指数関数的に増大するに違いない。一方でそれをどう活用していいかについては分からないというのが現実。知識の専門家も細分化、断片化が加速する一方で、例えば医療の世界もかつては1人の医者ができたようなことが、今は医者1人では何もできないという事態になっている。知識の融合化が重要になっているのに、デザインの手法が開発されていない」

 そんな趣旨の答えであった。

 「現在の検索システムでは、自分が本当にほしいものが引っかかって来ない。総合的に検索できるシステムの開発が必要」。以前、自然言語処理・画像処理、情報工学、知能情報学の分野で指導的な役割を果たしてきた長尾真氏(国立国会図書館長、元京都大学総長)から聞いたことがある(2007年9月18日ハイライト「ユーザーが満足する総合検索システムを」参照)。

 この日のパネルディスカッションを聞いていると、いま必要とされているのは、もっと欲張ったシステムのようだ。「新しい技術の開発、事業の開拓をしようとする場合、これまでどのようなことがやられているか徹底的に調べ、それを基に新しい展開を図ることが必須になる。どこかで似たようなことをしていたり、あるいは完全に解決されているテーマを繰り返しやってもしようがない」。長尾氏はそう言っていたが、山本氏ら知識流通ネットワーク研究会は、ほしい知識を簡単に手に入れるだけのシステムでは満足していないようだ。ネット内の膨大な情報から、直接「知的創造」を生み出すような技を編み出すことも狙っているように見える。

 Googleなどという存在を予想だにできなかったころの話だから、少々大目に見てもらいたいが、かつてとんだ恥をさらしたことを思い出す。人と会うより、新聞の切り抜きやパソコンをのぞくことに精を出しているように見えた後輩記者への“注意喚起”のつもりで、偉そうなことを社内の文書に書いてしまったことだ。

 「インターネット上で肝心な情報など見つからない。同じ役者(情報)が衣装や化粧を変えて何度も出てくるようなもの」

 ある時、助言したつもりの後輩の1人に逆襲された。「自分の情報が正しいかどうかチェックするのに使って何が悪い」。敵の方がよほど将来を見据えていた、ということだろう。

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