レビュー

サービス科学の必要性

2008.01.15

 産業技術総合研究所の広報誌「産総研TODAY」1月号に掲載されている吉川弘之理事長のメッセージ「前進の実感」中に、興味深い記述がある。

 その一つは「サービス科学」研究を産総研の中で始めたいという意思表示だ。既に吉川 氏は1980年代に「サービス産業は製造業をその内に含む」という指摘をしていたという。サービス産業が将来、大きな伸びが期待できる分野という指摘は、当時からあっただろう。ただ、とはいっても日本は製造業を柱にしないと将来ともにやっていけないのでは、という思いが一般的ではなかっただろうか。吉川 氏の指摘のユニークさは「先進工業国が不可避的に製造業を縮小してサービス産業に移行するという考え方を、一貫して否定してきた」上での、サービス産業重視論と言えそうだ。「サービス産業の進展を、製造業の進歩が支える」という考え方である。

 「基礎科学の領域で、人間に関する科学の進歩によってサービスとは何か理解する可能性が増してきた」「生命科学、医学、脳科学、情報科学、行動科学などが科学としての輪郭を明瞭にしながら急速に進歩し始めた結果、サービス産業の生産性向上を合理的に行うことへの期待が増してくる」

 こうした学問的な理由のほかに、「製造業の生産性が、低賃金の途上国に有利となり、これがサービス産業への関心を加速する」という現実も指摘している。

 「生命科学、情報科学、人間科学の研究などと、製造業のための基礎研究とが統合してサービス科学を研究するための準備が産総研でできつつある」ということだ。

 もう一つ興味深い指摘は、産総研の研究を支える基盤整備として「現場による改革」を強調していることだ。こうした 氏の考え方は、1月1日付科学新聞に掲載された北澤宏一 氏・科学技術振興機構理事長との対談でも披瀝されている(1月4日レビュー「若い研究者が夢を持てる日本にするには」参照)。

 今回のメッセージの中で、氏の考えはさらに明確にされているように見える。

 「改革とは、過去の長い時間にわたって蓄積した病弊を一気に払拭して過去と断絶した新しいものに生まれ変わるのではない。常時新しい試みを行ってその効果を観測し、その結果によってまた新しい試みを行うという、止まることのない連続的恒常的な過程である」

 「当事者自身の動機と実施による恒常的で連続的な変化こそ、最も有効な改革であるというのが現在の私の結論」

 「当事者による努力の可能性を押さえつけて、外部の、“当事者性”の希薄な人々による観念的思いつきによる改革の押しつけほど邪悪なものはない」

 昨今のイノベーション論議の中で「非連続的な飛躍」や「創造的破壊」といった言葉を見慣れた人々に果たしてどう映るだろうか。

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