これ以上ぜいたくなメニューはない、と思う試食会に出た。
特定非営利活動法人「イムクルス」が主催する研究会「予防医学への道-食と健康-」の最後に設けられたイベントだ。「イムクルス」の理事長は、前東京女子医科大学学長の高倉公朋氏である。メニューの提供者は、東京女子医大の戦略的研究拠点「国際統合医科学インスティテュート」の研究者たちとともに健康食品の加工、普及に力を入れている石井食品株式会社だ。
用意された料理、アルコール(調味料の酒も含め)とも、すべて天然素材だけから作られている。有機肥料で作られた大根とニンジンをそのまま食べやすい形に切ったものから、全く油を使わない雑穀パン、タマネギから作ったジャム(砂糖が少々入っているが、この砂糖も北海道産)、高野豆腐煮(松茸風味)、焼さつま芋のみぞれ煮風、さつま芋のレモン風味煮、わかめとお麩の酢の物、かぼちゃスープ、玄米もち…。メニューの記載順に書いていくとこんな具合だが、きりがないのでこの辺にしておく。
有機栽培のブドウで造ったオーストラリア産のワインを石井健太郎社長に勧められ、ついでにワインの話をいろいろ聞かせてもらう。カリフォルニア大学農学部食品加工部卒業というから、カリフォルニアワインについても当然詳しい。ある時まで零細業者ばかりだったのを、カリフォルニア大学の研究者たちがてこ入れし、大きなタンク醸造法を開発した。以来、安いカリフォルニアワインが出回るようになったそうだ。
これに対し本場のフランスは伝統的な製造法を守っているが、そもそもフランスは雨が多くてブドウの栽培には最適地とはいえない。年によってブドウの出来不出来があるため、味にも波があるとのことだった。「ヴィンテージ」というのが当たり年のワインを指す言葉だと、初めて知る。ワインの味などほとんど分からないが、つい最近、北海道のワイン会社から取り寄せたワインが「ヴィンテージ」と銘打っていた。珍しい貴腐ワインばかり注文しているのもどうかと思い、一緒に送ってもらったのだが、こちらもそこそこのワインということなのだろう。
さて、この日の研究会は、予防医学がテーマである。病気になってからあれこれ対応するより、ならない算段を考えた方がいいのはあたり前。漠然とそう思っていたが、医学、医療の世界はそれほど単純ではない、とパネルディスカッションを聞いて驚く。
「医学教育の中では予防医学ということが言われるが、実際の医療現場では健康保険が適用されないからいつまでたっても重要視されない」、「臨床医はそもそも患者しか診ない(病気になっていない人間のことはよく分からない)から、予防医学に関心が薄い」、「医師1人を育成するのに6,000万円かかっているが、その貴重な人材を病人のためにだけ使って、健康な人間の病気予防には振り向けていない」…。
アルツハイマーや、胃がんの最大危険要因であるピロリ菌などに対しても食事の工夫だけで明らかな効果が見られるのに、といった報告、発言を聞いているうちに、妙な気がしてきた。異常な健康食品ブームは科学的無知によるものだ、などと笑ってもいられないのでは、と…。