3連休に合わせ臨海副都心の国際研究交流大学村で、科学と社会をつなぐ祭典「サイエンスアゴラ」(科学技術振興機構主催)が開かれた。初日の23日、会場で終日、過ごす。この催しは今年で2回目である。傍聴人としてはよくこれだけの多様な出展、催しを集めたものだと感心するが、出展側の人には別の見方もあるようだ。
夕方、日本科学未来館で開かれたパーティ(会費制)で、主催者側から800数十名と初日の入場者速報値が報告された。「ちょっと寂しい人数。人口が数千人しかいない町にあるわが施設の催しでも1日、80人は集まる」。たまたま立ち話をしていた相手がつぶやいた。地方の小さな(多分)科学関係施設の学芸員である。
この種の催しは、とりわけ始めたばかりだと内容が相当濃いといっても入場者数には結びつかないのではないか。数を重ねないとなかなか人が押しかけるまでには、ということだろう。
午後に行われた開会シンポジウムのテーマは、科学コミュニケーションだった。英国科学振興協会のチーフ・エグゼブティブ、ローランド・ジャクソン卿が「科学と公衆」という題で特別講演をした。その後、日本の参加者も加わってパネルディスカッションを行ったのだが、司会者は議論のまとめに少々困ったのではないだろうか。青少年の科学離れに悩む日本に対し、この難題への方策で先生格とみている英国からよいアドバイスをもらえれば。司会者のそんな期待がうかがえたが、ジャクソン卿から「日本はこうしたらよい」といった発言が返ってこない。
むしろ、「単一の解決策はない」、「科学自体は単一な文化だが、それが行われるのはそれぞれの国で異なる」、「他の国にどうこうというようなおこがましいことはいえない」と実にまっとうな答えばかりであった。
一般国民の科学への関心を向上させる努力を英国があきらめてしまっているかといえば、無論そんなことはない。英国も日本と同じように悩みを抱えており、これまでのいろいろな試みを重ねてきたことを裏付けるようにこの難題を表す言葉自体、変化しているという。かつては科学コミュニケーションと言っていたが、現在は「パブリック・エンゲージメント・サイエンス」というそうだ(エンゲージメントとサイエンスの間に何か短い単語が入るかもしれないが聞き取れなかった)。
なるほど「エンゲージメント」というと「科学者が無知な大衆を啓蒙する」といった一方通行の感じがしない。皆で作り上げないかぎり、一般の人の科学技術リテラシーの向上などあり得ないということだろう。開会シンポジウムの冒頭にあいさつした吉川弘之・国際研究交流大学村村長(産業技術総合研究所理事長)も、科学者、技術者から一般の人に教えてやるというような考え方ではいけない、ということを盛んに強調していた。
パネリストの1人である森美樹さん(NHK専任ディレクター)も、面白いことを言っている。科学教育番組を作るとき、子どもたちより先生たちを念頭に置いているという。とっつきやすい「1問1答」スタイルをとるなど、先生たちに何とか理科に関心をもたせようと努力しているそうだ。さらに次の指摘にも、なるほどと感じ入った。これからの方向として、理科に全く関心がなく生きて来て、かつそうした生き方に自信を持っている大人に対し、科学への関心を持ってもらうような番組づくりが必要では、というのである。
科学的知識や考え方を必要とされるのは子どもより、むしろ多くの大人の方。開会シンポジウムによって浮かび上がったのは、そんな日本の現実のようでもある。いや、それだからこそ、まずはまだ十分間に合う子どもたちにはなんとしても科学に対する興味、関心を持ってもらわないと、ということだろうか。