薬害のニュースが、いつになってもなくならない。メディアの論調は、厚生労働省に厳しいものになるのが常だが、毎日新聞の28日朝刊「科学・いま&未来」面に載った坂口力・元厚生労働相のインタビュー記事が興味深い。
記事は、インフルエンザ治療薬「タミフル」服用後に報告された異常行動問題に対する厚生労働省の対応について元厚生労働相としてどう見るかを尋ねたものだ。
坂口氏は「厚労省は最終的に研究者だけを悪者にして、『企業から金をもらっている先生にはもう頼みません』と、幕引きを図った。これはおかしい」という。
タミフル問題は、タミフルの販売会社から寄付金をもらっている研究者が、副作用の有無について調査していることが批判された。これについて、坂口氏は次のように言っている。
「そもそもタミフルの副作用は、販売する製薬会社が調べるべきです。それを厚労省研究班が引き受けることになったうえ、予算が非常に少なかった。研究班は自分で工面するしかなく、タミフルの販売会社からの金しか使えなかったという構図です」
さらに「所属する大学などの組織が寄付金を受け、それを研究者に配分している場合まで研究に参加できないとするのは行きすぎではないでしょうか。…大学が企業から寄付金を受けることが特別ではなくなっている今、企業の寄付金を受け取っていないような組織の研究者はいないでしょう」とも。
この発言は、重要でかつ一筋縄ではいかない現実を背景にしているようにもうかがえる。今の時代、企業からの寄付金を受け取っていない研究者にしか、公平な評価を頼めないとなったら、能力、倫理ともにふさわしい条件を備えた人を探すのは困難になってしまうという認識が坂口氏にあるようにもみえる。
安全・安心な社会実現は、日本の最優先課題の一つになっている。しかし、必要なコストをどこまで公的資金でまかなうか、さらにその中で薬害防止についてどれだけ優先度を与えるかについて国民的合意を得ること自体が非常に難しいとなれば、この種の議論の黒白もまた簡単にはつきそうもない。
薬害防止の最終責任は厚生労働相が持つにしても、副作用などについての科学的検討の作業は、科学者を代表する組織である日本学術会議(これも政府の1機関で完全な独立機関とは言えないが、ほかに代わるものは見あたらない)という厚生労働行政から独立した機関が担う。そして、その検討結果が実質的な結論となる、という方向を目指すべきではないか、と考える人は少なくないと思うが、どうだろう。