レビュー

ノーベル賞選考における社会的貢献の評価は?

2007.10.11

 ことしのノーベル医学生理学賞、物理学賞、化学賞の受賞者は西欧、米国の研究者で占められた。同じノーベル賞でも文学賞などは、地域的な要素を考慮しているようにも見える。しかし、自然科学分野では、西欧、米国優位という現実は当分変わらないかも。あらためてそう感じた人も多いのではないかと思う。

 ノーベル賞が対象とする自然科学の中にはすぐに世の中の役にはたたない、例えば素粒子物理学や宇宙論といった分野がある。世の中の役に立つか立たないかに関係なく、ノーベル賞は授与されてきた事実を脇に置いて、今回の受賞者についてだけ見てみるといくつか気づくことがある。

 まず、医学生理学賞の受賞者3人、物理学賞の受賞者2人は、米国の文献情報会社、トムソンサイエンティフィック社が、昨年、有力候補者として発表した人物だったということだ。ノーベル賞の選考機関は、日本国際賞などと異なり事前にその年の授章対象領域を明らかにしないので、予想は容易なことではない。1年ずれた、ということで予想的中の価値が低下することはないと言える。

 トムソンサイエンティフィック社の予想手法は、同社が所有する膨大な論文引用データをもとに「どの研究者の論文がどれだけ他の研究者から引用されているか」を比較することで、「どの研究者が研究者仲間から最も高い評価を得ている、すなわち最も卓越した研究業績を挙げているかが評価できる」という考えに基づいている。今回の結果を見ると、こうした客観的手法に基づく研究者、研究業績の評価は十分意味がある、といえそうだ。

 今回の受賞者の顔ぶれを見て指摘できそうなもう一点は、どの業績もそれがきっかけで学術の飛躍的な拡大、進歩がもたらされただけでなく、世の中に明確な恩恵も与えているという共通点を持っていることだ。

 「ノックアウトマウスをつくりだし、さまざまな病気の原因解明などに貢献」、「巨大磁気抵抗効果を発見、ディスク大容量化を実現」、「自動車排ガス装置、燃料電池などの開発をもたらした触媒研究」と言われれば、研究業績についての専門的な説明がなくても多くの人々は、納得するだろう。

 トムソンサイエンティフィック社が、4年前から毎年発表している有力候補者の中には、まだ、受賞していない人の方がはるかに多い。この中には近い将来、受賞の幸運に恵まれる人々も含まれていそうだが、一方、社会への貢献という点で授章が見送られている研究者もいるのではないだろうか。だれでも分かる決定的なものがもう一つ、と判断されて。

 字数を費やさないとその業績が説明できないようだと、これからのノーベル賞受賞はむずかしいようにも思われるが、どうだろうか。

関連記事

ページトップへ