小泉堯史監督(脚本も)の最新作「明日への遺言」を、関係者だけを対象にした試写会で鑑賞し、出来栄えにうなった。
「雨あがる」で衝撃的なデビューを飾って以来、「阿弥陀堂だより」、「博士の愛した数式」と続いた3作品ですでに評価は定着している。だが、今回の作品でさらに動かしがたい存在になるに違いない、というのが一緒に鑑賞した先輩、友人の一致した感想であった。
いま、知る人も少なくなっただろうが、太平洋戦争末期、軍事施設が全くない名古屋地区も米軍による激しい空爆を受けた。これを国際法に違反した無差別爆撃だとして、撃墜された米軍機搭乗員を処刑したことの正当性を戦争裁判で主張、しかし責任は1人で負って絞首刑になったB級戦犯、岡田資・第十三方面軍兼東海軍司令官の物語(実話)だ。
小泉監督から撮影に入る前にもらった脚本の冒頭に、原作者である大岡昇平(原作名は「ながい旅」)の次のような言葉が書かれている。
「戦後一般の虚脱状態の中で、判断力と気力に衰えを見せず、主張すべき点を堂々と主張したところに、私は日本人を認めたい。少なくとも、そういう日本人のほか私には興味がない」
法廷場面が大半となっている作品は、台詞が絞り込まれており、すべての言葉、字幕をきちんと追い続けないと流れが理解できないかも、と心配するくらいだった。
映画というのは、まず脚本、次にキャスティングが大事だということは理解しているつもりだったが、今回の俳優の選定にもあらためて感心する。岡田資を演じた藤田まことは、この俳優以外考えられないというほど役になりきっていたし、ナレーションのほかには台詞がない夫人役、富司純子のほとんど表情だけの演技も見事としか言いようがなかった。
原作とその主人公、岡田資の生き方に感銘を受けて、10年以上も前に脚本を書き上げていた小泉監督の眼力、洞察力を、その当時、よく理解できなかったことを思い出す。いまはただ、感服するのみである。
公開は来年、3月の予定だ。