レビュー

編集だよりー 2007年9月13日編集だより

2007.09.13

小岩井忠道

  北海道稚内市と幌延町をはじめて訪れた。日本原子力研究開発機構の広報企画委員会に出席するためだ。独立行政法人や国立大学法人など公的研究機関のどの程度が、外部の人間からなるこの種の委員会を設けているかは知らないが、この機構は相当本気である。初回だけは東京事務所で行ったが、2回目は高速増殖炉原型炉「もんじゅ」がある敦賀市の高速増殖炉研究開発センター、3回目の今回は、幌延深地層研究センターのある北海道幌延町で開催し、現場レベルの広報態勢、地域対応についてもよく見てもらおうというわけである。

 体の良い慰労出張では、などと深読みする事情通がいるかもしれないが、そうではない。敦賀は日帰りだった。さすがに幌延町となると日帰りはきついということだろう。1泊2日の日程だった。ついでに言えば、昼食、夕食代も参加した各委員、役職員持ちで、実に透明性も高い。

 もう一つ工夫の見られるところは、必ず地元の人々を加えた意見交換会が設けられていることである。副町長、商工会経営指導員、農協青年部幹部、町内会女性部幹部といった肩書きの人たちから、いろいろ意見を聞くことができた。

 「40歳くらいの町民は、20歳のころに突然『幌延に高レベル放射性廃棄物の処分場』といったニュースを連日のように流された記憶があり、原子力に対するマイナスイメージがいまだに抜けない」

 幌延という地名が突然、全国に知られてからもう20年もたつのか!農協青年部幹部の方の話に、とにかく時間のかかる原子力プロジェクトの宿命をあらためて思い知らされる。

 さて、広報企画委員には、作家で慶応義塾大学教授でもある荻野アンナさんや、11月下旬、日本だけでなくロサンゼルス、サンフランシスコなど米国の大都市でも同時公開される映画「ミッドナイトイーグル」の原作者である高嶋哲夫氏という著名人がいる。意見交換のためにわざわざ幌延深地層研究センターまで足を運んでくれた地元の人たちが、無名の人間の話など聞きたいとも思えないので、その場は荻野、高嶋両氏に任せ、聞き役に徹した。

 ということもあり、意見交換会で感じたことをここで一言。

 幌延深地層研究センターは、20年もの間、いろいろなことがあったものの、現在、上物は大体完成し、坑道掘削が始まっている。放射性物質は持ち込まない、と地元との契約で約束しているから、原子力施設というよりは、地学研究施設といったほうがふさわしい。しかし、それでも地元、特に周辺、自治体住民の目は相変わらず冷ややか、といえそうだ。商工会などが望むような短期的な地域振興策に施設を活用するというのは、非常に難しいようにみえる。

 では、何とか地元に評価されそうな試みはないのだろうか。編集者なら、ターゲットは、子どもたちだと思う。地下深部にはかつて研究者たちですら予想もしなかったような豊富な微生物の世界がある。一般の人の地下に対する関心は、この20年程度だけでもだいぶ高まっているのではないだろうか。500メートルもの縦坑を掘る同センターの研究施設の特徴を生かして、センターの職員が、地元の子どもたちに理科と数学を教えたらどうだろう。理科、数学が不得手な人の方が圧倒的に多い小学校、あるいは似たり寄ったりと思われる中学校の先生が教室で教えるより、はるかに効果的な理数教育が、できるのではないだろうか。軌道に乗ってきたら夏休みには、他の地域の機構研究者を呼んで集中講義や、野外授業などもやってもいいのでは。

 そうした努力を5年、10年と続けて、それでも幌延町の子どもたちの理数科のレベルが上がらなかったとしたら、どうかしている。

 1年2年先の効果を当てにした地域振興のためにセンターを使うなどというアイデアより、長い目で見れば確実に効果があり、ほかの地域からも注目される地域対応ということになるのでないかと思うが、どうだろう。例え、原子力にマイナスイメージを持つ親、理数科が好きでない親であっても、自分の子どもたちが理数科に強くなって喜ばないはずはないだろうから。

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