遺伝子組み換え食品を食べるかどうかは、突き詰めれば個人の意思ではないか。判断材料は多いに超したことはないだろう、と当サイトで遺伝子組み換え食品に関する話題はよく取り上げてきた。「スギ花粉症抑える遺伝子組み換えコメ栽培」という農業生物資源研究所の研究成果も、「これは関心を持つ人も多いだろう」と思い、ニュースにして紹介している。
ところが、この試みについては、「今年、厚生労働省から『この薬は医薬品扱い』との見解が出て、期待がしぼんだ」ことを、毎日新聞の記事(7日朝刊生活面『岐路に立つ組み換え作物』<下>)で知った。厚生労働省からこうした見解が出ていることは気がつかなかったので、同省のホームページの検索機能を使ってしばし、探し出す努力をしたのだが、見つけられなかった。
気になったのは、こうした結論を1省庁がこの時点で出してしまうのが、本当に国民のためなのだろうかということだ。日本学術会議の関連委員会あたりが、役所とは別の立場で検討その結果を公表し、あれこれ議論が交わされてから決めてもよいのではないだろうか。
恐らくいま多くの人は、遺伝子組み換え食品と銘打たれたら手を出さないだろう。しかし、この状態がずっと続くという保証もまた多分ない。この先ずっと日本人だけがそうした姿勢をとり続けたとしても、一方で食糧自給率は下がり続けているという現実がある。外国の生産者に特別注文した食品だけをいつまでも食べ続けることができるか、という問題も、いつか突きつけられそうだ。
民意というのもいろいろあるのではないだろうか。内閣支持率のように短期間でめまぐるしく変わる(だからニュースになる)のもあれば、なかなか変わらないのもある。例えば、法律ができても脳死移植の実施例が増えないのは、日本人の非常に多くの人に違和感があるからだろうし、それはなかなか変わらないような気がする。
遺伝子組み換え食品に対する拒否感は果たしてどちらなのだろうか。今のところ後者のようにも見えるが、一方、脳死移植などとは違うのでは、という気もする。いまわれわれが食べているもので野生種とほとんど同じというのは、いったいどれくらいあるものだろうか。野菜、果物のほとんどすべては育種という方法で遺伝子を変えられてきたものだろう。肉の好きな人は、猪や鹿の肉でも食べ続けない限り、野生種からはだいぶ遺伝子も変わっている家畜の肉を食べるほかはないだろう。
例えば育種による遺伝子改変食品と遺伝子組み換え食品のどこがどう違うのかについても、もっと研究者に発言してもらわないと、編集者を含め多くの人は的確な判断などできないのではないだろうか。(毎日新聞の引用は東京版から)