合宿中の大学運動部員以外、観光客の姿も少なくなった新潟県・妙高高原で週末を過ごした。地ビールと豪勢なバイキング料理をたらふく飲み食いしながら、カントリーウエスタンやピアノのソロを聴くという贅沢な遠出だった。
開店してから29年になる赤坂のライブハウス「STAGE-1」が、ここ数年、夏の終わりに開催している一泊二日の特別企画である。1人では寂しいので、5月に国立新美術館の日洋展(高校の同級生が入選した)を連れ立って鑑賞した同級生仲間に声をかけたところ、「面白そうだ」と数人が乗ってきた。
ホテルが運航している新宿からの直行バスで、隣に乗り合わせたのが、「STAGE-1」にも毎月出演しているというロカビリー・カントリー歌手のエルヴィス・アラン・キズスリー氏だった。アランというのは編集者の知らないカントリー歌手だが、エルヴィスは、無論、プレスリーのことである。キズスリーは、本名の鈴木(スズキ)を逆さ読みにしてキズス、それにプレスリーのリーを付けたということだった。「キズグスリ(傷薬)と間違えられそうで、最初はどうかなと思ったけれど、インターネットで探してもほかには見あたらない。今では良かったと」。エルヴィスとアランにほれ込んで、少年時代から趣味で歌っているうち、ついに大企業を退職後、プロになってしまったということだ。
わが方も「中学の謝恩会でプレスリーのG・Iブルースを歌い、校長先生たちを驚かせた。和音など知らないから、楽器は弾いたふりだけして」と、とっておきの自慢話?をしたら、その夜のステージでこの曲もちゃんと歌ってくれた。編集者より4歳も年上だということだが、特にステージでの若さには脱帽である。
キズスリー氏は、実は演奏者としてではなく、客として会費を払い(驚くほど格安だが)この催しに参加した組だ。演奏者と客が渾然一体のところが、この催しというか、ライブハウス「STAGE-1」自体の特徴なのである。編集者たちより年配と思われる男女の客も、カントリー歌手たちが身につけるような帽子やシャツなどを身につけて歌ったり、踊ったりしていた。飲み食いして歌や踊りを見ているだけというのは、地方育ちで楽器演奏やダンスにまるで能のないわれわれ同級生仲間くらいなものだった。
翌日も温泉に浸り、地ビールを楽しんだ後、バスで帰京するとき、昔読んだ産経新聞のコラム「産経抄」の一文を思い出した。
スーパーより少々高かろうと、たまには近所の商店で買い物をするというのが、世の中というものではないか、という趣旨の指摘にいたく感心したのを覚えている。「STAGE-1」に集まる演奏家や客たちの姿に、チェーン店よりなじみの個人商店に肩入れしたいという心情があるような気がしたからだろうか。
昔に比べ、個人商店はさらに減ってしまっていて、産経抄の主張に共鳴しても実践は難しい。できることと言えば、せめて飲む店くらいは大きなチェーン店より、なじみの個人経営店で、ということくらいだろうか。大崎、神田、新橋、浅草などの、蕎麦やおでんのうまい店やバー、そして、赤坂の「STAGE-1」といった…。