「小鳥の歌や脳を研究して言語の起源を探る」。読売新聞が日曜朝刊の「サイエンス 学び」欄で連載している「続・漂う博士」の2回目(12日)にユニークな研究を進める岡ノ谷一夫氏の話が出てくる。氏は、理化学研究所脳科学総合研究センターで、生物言語研究チームのチームリーダーを務める。
1901年、報知新聞が正月の紙面で「20世紀の豫言」という特集を組み、百年後に実現していると思われる当時の夢を23項目並べた。相当部分が百年もたたずに実現していることから、科学技術の進歩がいかに目覚しいかの例としてよく引用される。その中で「獣語の研究が進歩し、人と犬、猫、猿とは、自由に対話することができる」というのがある。数少ない外れた方の予言のひとつだ。岡ノ谷氏の研究テーマが、相当に挑戦的であることが、想像できる。犬や猫といったほ乳類どころか、小鳥の言葉を理解してしまおう、というのだから。
岡ノ谷氏については、当サイトで前に連載した「科学者になる方法」でも紹介したことがある(「みんなと同じでなくても」参照)。好きな動物研究をするため、動物の心理学が学べる慶応義塾大学の文学部に入学した、と語っていた。ただし、氏のユニークな研究成果である「ジュウシマツの歌に人間のことばのような文法構造があること」を見つけたのは、米国メリーランド大学大学院での研究生活の中からのようだ。
読売新聞の記事は、日米の違いを次のように言う。「幅広い基礎を身につけさせる大学院での徹底した教育」(米国)に対し、「日本の大学院教育は『徒弟制度』のまま。研究重視で授業はほとんどない。博士号は自立した研究を行うパスポートのはずが、狭い分野の能力証明になっている」と。その上で、岡ノ谷氏の次のように言葉も紹介している。
「どんな分野も、概略は理解できる自信がついた。日本の大学院教育を受けていたら、枠から大胆に飛び出せたかわからない」
政府の教育再生会議は、6月にまとめた第2次報告で、大学院改革の必要をうたっている。「学部の延長ではない体系的・組織的な教育を徹底して実施する」、「自大学出身者だけでなく、広く真に有能な人材を求め、…他大学・海外出身者にも公正で開かれた入学者選抜を行う」。その上で「国際競争に勝ち抜く世界トップレベルの大学院を形成する」としているのだが…。
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