レビュー

関心は原子力発電所の耐震指針に

2007.07.23

 新潟県中越沖地震の影響は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の地震対策の是非にとどまらず原発全体の耐震論議に発展しつつあるようだ。

 日経新聞23日朝刊の科学欄に、鈴木篤之・原子力安全委員長のインタビュー記事が載っている。この中で鈴木委員長は、「指針を改定しないのか」という問いに対し、「調査も何も進んでいないので改定のしようがない。今回の地震によって新指針の信頼性が損なわれる可能性がゼロではないから、まず調査してもらってその結果を我々は勉強すべきだ」と答えている。

 旧指針で建設された柏崎刈羽原子力発電所が、今回の地震によって、原子炉など重要なところは壊れていないようなので、より厳しい対応を求めている新指針を今すぐ変えなければならないとは思わない—。記事全体から受ける感じでは、鈴木原子力安全委員長は今回の事態をこのようにとらえているようにみえる。

 19日の原子力安全委員会後に公表された「委員長発言」でも、微量の放射能を含む水が非管理区域に漏洩した件や、変圧器の火災などについて安全委員会として重視していることを強調する一方、耐震指針については「現時点では、新指針の再改訂の要否を議論すべき状況にはないと考えている」と明言している。

 今回の地震では、旧指針に基づいて想定していた設計用限界地震(マグニチュード6.5の直下型地震)よりも大きな規模の地震が起き、その結果、想定の2.5倍もの加速度が原子炉建屋最下階で観測された。この点について「原子力安全委員長発言」は、「旧指針のようにM6.5の直下型地震という一定規模地震を規定せず、震源と活断層を関連づけることが困難な地震の観測記録をもとに敷地の地盤特性を加味した応答スペクトルを設定して『基準地震動』を適切に決めることを求めている」と、新指針の有効性に自信を示している。しかし、この説明を十分理解し、納得する普通の人々がどれだけいるだろうか。

 昨年9月の新指針設定に当たっては、原子力安全委員会の原子力安全基準・指針専門部会耐震指針検討分科会委員として、新指針検討作業にかかわってきた石橋克彦・神戸大学都市安全センター教授が、最終決定の分科会で原子力安全委員会専門委員と耐震指針検討分科会委員を辞任する事態が生じている。「分科会の審議の在り方と指針改訂の最終案に到底納得することができず、委員として国民に対する責を果たせない」というのが理由だった。

 今回の地震を受けて、石橋教授以外にも、指針見直しを求める地震学者の声が聞かれる。耐震に関する論議の経過を逐一、公開し、かつ分かりやすく説明する責任を原子力安全委員会が果たさないと、柏崎刈羽原子力発電所にとどまらず、地震に対する原子力発電所の安全性に対する一般国民の不安は解消しないのではないだろうか。電力会社と原子力安全・保安院の説明、対応だけでは多分、難しいだろうから。(日経新聞の引用は東京版から)

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