レビュー

編集だよりー 2007年6月24日編集だより

2007.06.24

小岩井忠道

 新しい研究分野が出てくると、話が通じやすいその分野の研究者たちだけで分派をつくり、既存の学会から分かれてしまう。日本の学界にはそうした傾向がある。高名な研究者から最近そんな話を聞いた。

 研究環境の向上だけでなく、科学者と社会とのコミュニケーションの推進を目指すNPO法人サイエンス・コミュニケーション主催の政策研究会に参加し、この指摘を思い出した。

 この会合のテーマは、全米科学振興協会(AAAS)の活動などを参考に、日本の科学系NPOの将来について検討することだった。AAASというのは、1848年の創立で科学者の互助的な組織としてスタートしたそうだが、いまや262の加盟団体を抱え、米国の学会すべてを傘下におさめる巨大なNPO組織になっている。英国のネイチャーと並ぶ国際的な科学誌「サイエンス」を発行し、この購読者はだれでも会員になれる。つまりすべての研究者ばかりか、一般の人々にも門戸を開いている組織である。

 AAASとは、比較的付き合いがあった方だと思う。毎週、サイエンス誌発行日の前日に要約のコピーが報道機関に配布される。「しめしめ、ニュースになりそう」。こんな研究発表を見つけるとAAASの広報からその論文のフルコピーをもらい、記事に仕立てて毎週決まっている指定の解禁日時にニュースとして流す。20年近く前になるが、そんな作業を数年間、続けたものだ。

 日本の学会に同じようなことをしているところもないし、やりそうなところもないので、AAASのような組織が日本にもあれば、などとは端から考えもしなかった。エンバーゴ(解禁日時付きのプレスリリース)というやり方だけでも取り入れれば、日本の学会や学術誌で発表される研究成果ももっとマスコミに取り上げられるのに。そんなことをチラッと思ったりもしたが…。

 要は科学広報、科学コミュニケーションの重要性に大学、研究機関、学会をはじめとする公的機関や企業がどれくらい気づいているかの問題ではないだろうか。公的な研究費を得ている研究者たちには、自分の研究内容を一般の人々にも分かりやすく説明する義務がある。このような考え方をする研究者たちが、昔に比べると格段に増えているように見えるのは何よりだが、自分たちだけで急にやろうとしても無理というものではないか。プロの手を借りる、あるいはプロに任せるという考え方が必要ではないだろうか。

 コミュニケーションには手間もかかるし、金もかかる。一方通行の話でもない。露見した不祥事の影響をきちんと見通せず、最初から後手や失敗ばかりの広報活動によって、営々と気づいてきた組織の屋台骨が一挙に傾く。そんな例を何度も見せられないと、広報、コミュニケーションの重要性が広く認知されない、というのでは寂しい。

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