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スマトラ沖地震・インド洋大津波の被災地は今

2007.06.13

 2004年12月に起きたスマトラ沖地震・インド洋大津波で大きな被害を受けたアジア海域社会では、共同体的な漁村社会の基盤がくずれるなど伝統的な社会秩序の崩壊に悩んでいる、と山尾政博・広島大学大学院生物圏科学研究科教授が、海洋政策研究財団のニューズレター164号に報告している。

 山尾教授によると、政府や国際援助機関・NGOによる復興支援により、漁船、エンジン、漁具、養殖用の資材、操業資金の一部が被災地の漁民に贈られた。この結果、スリランカでは、漁船の数が被災前より増えてしまい、過剰になった漁船の一部を政府が漁民から買い取ろうという減船政策が議論されている。タイ南部クラビ県でも、津波で生け簀(す)養殖が大きな被害を受けた。ところが、復旧が進んでマングローブ域のあちこちが生け簀で埋め尽くされている。生け簀が増えすぎたため、稚魚の天然採捕に頼るハタ養殖では資源が減少した、という報告も。

 甚大な被害を受けたインドネシアのバンダ・アチェには、パングリマ・ラウト(海のキャプテン)と呼ばれる伝統的な組織がある。漁獲行為について取り決めをして資源のとりすぎを防ぐ役割を果たしてきた。ところが、こうした共同体的な漁村社会を基盤に成り立っていた住民参加による地域単位の資源管理方式が、漁民の多くが内陸部に転居した地域では、機能しなくなっている。

 一方で、NGOを始めとする国内外の援助機関が、住民の自立を促そうという狙いから始めたマイクロ・ファイナンス(零細金融)のグループ作りによって、生計自立に向けた動きが各地でみられるようになった。資金融資を受けて、水産物の加工販売、生産資材や生活物資の共同購入、工芸品作り、店舗の共同運営など、多彩な経済活動に取り組む女性たちが増えている。

 日本政府は地震・津波発生直後からさまざまな支援を行ってきた。国際機関を通した援助でも、援助総額の半分にあたる約2億5千万ドルを供与している。他方、被災住民の多くが復興支援に対する不公平感を抱き、格差拡大の懸念をもっていると言われる。被災住民や地域社会にとって、本当に必要とされているソフト分野への人的協力や支援を進めていくことが大事だ、と山尾教授は提言している。

 山尾教授によると、スマトラ沖地震・インド洋大津波による犠牲者(不明者含む)は約30万人で、500万人を超える人々が被災した。経済的な損失額は115億ドルに達すると推計されている。

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