ちっぽけな庭のこぶしの木に、20年来巣箱をかけている。シジュウカラが今年も営巣を始めた。ちょっとした異変が起きた。2羽のオス(首から胸・腹にかけての黒いネクタイ模様がメスより太くて長いのですぐ分かる)が巣箱の前辺りで空中戦を演じていたかとみるや、パッと地面に落ちた。急いでガラス戸に近づき観察すると、くちばしで噛みつきあいながら十数秒間も死闘を繰り広げたのである。
すでに出来ている♂♀に、別の♂がちょっかいを出したに違いないが、初めて見る凄い光景であった。その後は無難のようだ。そういえば、木製の巣箱はもうボロボロ、ヨレヨレ。来年は新しいのに取り替えてやらなくっちゃあ。以上は本題にあらず。
都会の駅周辺のドバトは何とかならないものか、としばしば思うのだ。時には毒づきたくなる。以前調べたことがあるのだが、フンや騒音公害、農作物被害は相当なもので、防除・苦情などの問い合わせが役所や動物園、鳥類の研究機関に多いのは、意外にもカラスではなくドバトに関してであった。
ものの本によると、ドバトの先祖はヨーロッパ、中東、アジアに分布するカワラバト(ロック・ピジョン)。日本にはいなかった移入動物で、渡来は6〜7世紀とされる。広く飼育されるようになったのは明治以降。通信用(伝書バト)や観賞用、競技用、食用に飼われ、一部は野生から「家禽(かきん)」となった。
ロック・ピジョンと言われる通り、岩場(ロック)を好むDNAを持っているらしい。近代都市はドバトに格好の“職住”を用意している。営巣とねぐらはコンクリートのビルや駅舎、高速道路の下。おまけに餌づけをする“ハト派”が後を絶たない。「ハトにえさをあげないで下さい」と看板が出ていても何を勘違いしているのか、平気である。野鳥のうち、ドバトの観察個体数の割合が高いのは餌づけが行われている場所、という調査もある(山階鳥類研究所)。
こういう状態を「シナントロープ=人間とともに生活している生き物」というのだそうだ。野生から家禽化され、再び野に戻されたが、誰かに飼われるでもなく、都市・地域全体が鳥かご。怖じけることなく人間に近づく。キリスト教でいう、人サマの「アガペー」(無償の愛)を受けつつ、ひどい仕打ちをする——こんな図式だが、むろんドバトに責任があろうはずもなく、人サマの自業自得である。
環境省の鳥獣関係統計によると、ドバトはいたずら鳥として毎年全国で10万〜20万羽が駆除され、かえってドバト受難を引き起こしている。せめて駅周辺での餌づけだけはご免こうむりたい、と言いたいのだ。といって、私は決して“タカ派”ではございませんので。冒頭、身辺雑記でエクスキューズしておいたのはそのためであった。