レビュー

編集だよりー 2007年3月13日編集だより

2007.03.13

小岩井忠道

 全日空機の胴体着陸が、大騒ぎになっていたころ、敦賀の日本原子力研究開発機構・高速増殖炉研究開発センターで、原型炉「もんじゅ」を見学していた。

 12、3年ぶりの訪問ということになる。この前は、確か冷却材のナトリウムが漏れた事故を起こし、運転中止に追い込まれる前だったから。

 事故は、冷却材の温度を測定するために差し込んでいた温度計が、折れてしまい、その挿入口からナトリウムが漏れ出てしまったという想定外のものだった。その後の対応がまずく、ことは技術的な問題を超えて膨れあがり、高速増殖炉の開発に12年間もの空白を生んでしまったことになる。

 事故後に改善されたことは、いくつもあった。ナトリウムが漏れたときに、配管からナトリウムをすばやく抜き取るドレイン装置の大型化、火災を大きくしないための窒素ガス注入システムの採用、監視カメラの増強、コンクリート壁面を断熱材で覆う工事などなど。

 しかし、こうした改善は、当たり前のことともいえる。それより、編集者にとっては、ナトリウムの固まりを包丁で切らせてもらったのが、面白かった。ナトリウムは指先の水分とも反応して有害物質をつくるから、素手では触れない。しかし、素手でつかめないものなら、身近にいくらでもある。ドライアイスのように。

 ナトリウムは、高温になると燃え出し、大気中の水分とも爆発的に反応する性質を持つ。しかし、高温になれば危険なものはいくらでもあるし、むしろ高温でも無害な物という方が少ないかもしれない。

 要は程度の問題だ、ということを理解してもらうためには、なかなか効果的なやりかたではないか。ナトリウムを高温にして燃えるところを見てもらったり、常温のナトリウムを包丁で実際に切ってもらうのは。歴代の文部科学大臣が、ナトリウムを包丁で切っている写真が壁にはってあるのをながめ、感心した次第だ。

 こうしたPRを早くから取り入れていたら、「ナトリウムは恐ろしい物質」という世間に流布しているイメージも相当変わっていたのでは、と。

 「もんじゅ」は、8月の確認試験を経て来年5月から性能試験という運転再開へ向けたスケジュールがたてられている。

 ナトリウム研修棟のある敷地のすぐ下に、民家が見えた。2男以下は故郷を出る。それでずっと15という世帯数を守り続けて来たという白木(しらき)集落を見るのは、今回が初めてだ。この辺りは、平地が少なく、「もんじゅ」が建っている場所も、棚田があった海沿いの斜面を大きく削り取り、その土砂で海面を埋め立てたところを敷地の一部にしている。

 海面近くのわずかな平地に軒を寄せ合うように建つ家々を眺めて、これまで考えたことのない「符合」を感じた。

 循環型社会を持続させてきたかに見える白木の集落と、温暖化対策で再び脚光を浴びつつある高速増殖炉原型炉「もんじゅ」との。

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