雨なので半日、図書館で過ごした。新刊が並んでいる棚をのぞいたら「不義密通」(氏家幹人著、MC新書)が、目に留まった。
読んでみると、10日の「編集だより」で触れたばかりの酒井家庄内藩が出てくる。藩内の女性たちが家族を捨てて、家出、出奔した例を集めた資料があるというのだ。
皆が皆、不義密通にかかわるものばかりではないのだが、とにかく数が多い。当時、夫や子どもを捨てるには心中でもするくらいの覚悟でなければ。女性の不道徳には厳罰でのぞんでいたはずだから。そんな通念しか持ち合わせない人間には、意外な事実だ。
磔の刑に処せられたといった厳しい例もあったが、そうではない方が多い。後始末に苦慮して、江戸表にお伺いを立てる文書を出した例など、笑ってしまう。現代に近い江戸時代ですら、その世相を子細に知るとなると一筋縄では行かない、ということだろう。
この著者には、「大江戸残酷物語」(洋泉社、2002年)という著書がある。当時、新聞の書評でも取り上げられていた。江戸時代の日本人というのは相当、残酷なこともしていた、と詳しく紹介されている。劇画でしか知らなかった首切り浅右衛門(山田浅右衛門)家の話が出て来る。
明治になってすぐ、処刑人という公職を失った山田家の子孫が、その後も人の肝を薬として持ち歩いていたという話には、仰天した。明治3年に政府によって禁止されるまで、山田家は代々、「役得として罪人の死体から肝を取り出し製薬販売し、巨利を得ていた」というのである。
「不義密通」の巻末に載っていた氏家氏の著書一覧を見て感心した。常識、通念を疑う。これは何も理工系の研究者の専売特許ではなく、人文・社会系の研究者たちも同じ、と。
教科書には、載っていそうもない。氏家氏の著書は、そんな内容が推測できるような題名ばかりである。